鮫島慶太鮫島慶太

英文法の学習について(研究会質疑応答より)

英文法の学習について

2018年3月29日の研究会発表の後の質疑応答で以下のような質問がありました。

「文法自体がLogicalになっていないという意見についてどう思われますか?5文型文法は良くないということもよく言われますが、その点についてどうお考えですか?」

当日は以下のように答えました。

「中1から高1・2辺りまでダラダラと文法指導をしているが中3~高1時に、理論を理解する思考力が充実してくる時期に、集中的にやるべき。」

十分なお答えでなかったのがずっと引っかかっていました。

多分、質問された方の真意を私が不勉強でその場で十分理解してお答え出来なかったこともあると思います。

この質問は以下の2つのいずれか(または両方)の点を問題にされているのだと思います。

① 文法そのものは、全て理に適ったものとは限らないし、文法を学びその通りに英語を使おうとしてしまうと、上手く英語が使えないなど 実際に英語を使う場面で役に立たない知識となっているものもあるのではないか?例えば5文型など。

② 文法を学んで知識として身に付けても、論理的に英語を理解したり話したり書いたりする能力はつかないのではないか?

いずれの場合であっても、ご指摘はその通りだと思います。

①については「文法のための文法」で、英語を使う場面ではほとんど何の意味もないような知識なら、その習得には時間を浪費すべきではないと考えます。

Reading/Listening /Speaking/Writingのあらゆる場面で必要な文法知識を優先して学ぶべきであり、「知識」として持っていても、使う場面で意味がないようなものは、文法そのものが大好きな生徒は除いて、一般の高校でも教える必要はないとも思います。

ただ、ネイティヴが意識した知として持っていなくとも知っておくことが、ネイティヴの思考を理解することに繋がるような知識もあり、それらについては学ぶことの意義を否定せずとも良いと考えます。具体的には比較におけるtheやnoの使い方などは理解しておく方が使う場面では適切に使えるのではないかということです。

また最近では、例えば不定詞の用法を文法用語で解説する従来のタイプの教材や授業から
一応そうした解説はしながらも、toのコアイメージを重視したシンプルでありながら本質的理解に繋がるような理解を目指した解説をする教材や授業も増えてきていますので、よい方向に進んでいると私自身は考えます。安易な文法軽視がこうした流れまで否定してしまうことになってはならないのではないでしょうか。

②については、質問の意図にはなかったのかもしれませんが、これも当然で、文法の学習と論理思考の学習は、少なくとも中高生の学習においては本質的にはあまり関係ないと思います。
(ただ、文法を研究されている学者ならそうとも言えないとも思いますが

蛇足になりますが、文法学習全般について以下に私見をまとめておきます。
現場の英語教員が文法をどう考えて指導しているか、単純な文法指導の肯定や否定ではなく、一つのテーマとして個人的にも理解を深めたいと思っていますのでご意見があれば是非お願い致します。

私は文法学習も文法指導も必要だと考えます。

子どもと同じように語学を学べば文法など意識しなくても英語を使えるようになる、というのは正しいと思いますが日本で英語を勉強するという環境を考えるとそのやり方では膨大な時間を浪費することになりますし、いわゆるイマージョン教育だけでは習得能率は上がらないことも最近の科学的知見では実証されている通りです。

「慣れて身に付ける」が難しく、非効率的であるのなら「理解して身に付ける」ための文法学習は否定されるべきものではないと思います。

ただ、所謂「文法問題」を解くということをゴールとしてしまうと「文法学習」が目的化してしまうため、「ルールの丸暗記」に追われてしまう学習になってしまいます。これはそれほど意味があるとは思えません。

新センターや民間試験のReading問題の良い所は文法問題そのものを出題しないことです。

入試問題でも、語法の知識を問う問題はまだまだ多いですが、文法に関する知識を問う問題の出題は難関大ほど減っていますしこれは良い傾向だと思います。

文法問題を解くための「知識丸暗記」の文法学習ではなく、「ハートで学ぶ英文法」のように
ネイティヴの思考を身に付けるための「理解」の為の文法学習を、短期集中的にしっかりやるべきだと思います。

また「5文型」を中心とした文法というよりは「構文分析アプローチ」という方法論についても一言(長いですね…すみません)。

駿台予備校の伊藤和夫さんなんかが代表的存在と言えるのでしょうか?
「英文解釈教室」は私も学生時代読みましたし、英語を構造から理解する方法論としては、素晴らしい名著だと今でも思っています。ただ、こうした方法論には「限界」がつきものです。

最大の欠点は、「漢文読解のように英語を読む癖」がついてしまうことです。
これは大きな欠陥であり、弊害も大きいと思います。伊藤先生ご自身も、「最終的には無意識化に置くべき知」と認識しておられたと思うのですが、万能ツールのように考える人は昔は多かったですね。当時は哲学などで「構造主義」が流行っていたからなのかもしれません。

ただ今でも、そこまで難解な理論でなくても、「構文分析的なアプローチ」は「和訳」の出題が多い国公立大の個別試験では今後も必要とされ予備校のみならず、高校の授業でも一部行われていくのかもしれません。その学習に偏った学生にとっては弊害も無視できないですね。

では、「和訳」が悪なのか?というとそうとも言い切れないと私は思います。

要は英文を直読直解する時と日本語に変換する時では別の読み方をすればよいのかなと思っています。

また、母語と外国語の両方のレベルをアカデミックなレベルで高める必要がある学習者には
和訳の出題もありかなとも思います。日本語と英語の違いを、構造的なアプローチが学習者に認識させる大きな役割を果たす可能性があるからです。

ただ、最近は、「所謂、構造分析力そのものを問う問題」も難関大ほど減っているように思います(特に京大・阪大以外)。

東大の4-Bでは例年和訳が出題されますが最近では「構造の理解」よりも「意味・文脈」
を重視する流れに変わってきています。

下線部の構造分析さえ出来れば出来る問題ではなく全体を英語であろうが日本語であろうが深く読めていないと解けない問題になってきているので、こういう出題であれば「構文偏重」ではなく、「読解力育成」の方に指導も行かざるを得ないし、英語の精読学習も促進されるので
よいのではないかと考えています。

きちんとしたお答えになっているかどうか分かりませんがこの場で改めて発信させて頂きました。

ご質問頂いた先生、本当にありがとうございました。出来れば直接お話し出来れば、もっと的確にお答え出来たのかもしれません。是非、その機会があることを願っています。私自身の勉強になる知見をお持ちの先生だと感じました。ご指導よろしくお願い致します。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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