女子教育研究会FEN 第13回オンライン学習会

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「先進国最下位?日本のSTEM分野のジェンダーギャップとその要因」

​【日時】 4月27日(土)20:00~21:30
【形式】 Zoom オンライン開催

​【登壇者】斎藤明日美さん
​【司会】吉野明氏(女子教育研究会FEN 顧問)

NPO法人Waffleの共同創業者 齋藤明日美さんをお迎えしてオンライン学習会を実施しました。
STEM分野における女性の少なさを課題とする日本社会の問題点を様々な角度から分析頂き、
ご自身の中高時代の体験も交えて、今後の解決に向けたお話をして頂きました。
齋藤明日美さんはForbes Japan誌が選ぶ「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出された方です。
概要は以下の通りです。

【STEM分野における女性という課題意識の出発点】
「ジェンダーバイアスがAIで再生産される」という課題意識からScienceの分野における女性の少なさが引き起こす問題に関心を持ったことが出発点。

【NPO法人Waffleでの研究成果や取り組みについて】

□ 過去の科学技術の発展でも「女性の存在」が抜け落ちている。自動車の衝突試験用ダミーも男性を基準に作られてきたことなど、「標準」からマイノリティとして女性が阻害されていることは重大な問題である。
□ 特定非営利活動法人Waffleを創立し、この課題に実際に取り組むようになった。この団体では、4Step(認知→興味関心→進路選択→キャリア支援)で課題解決に向かってきた。
□ 日本の理系分野の女性の数についての現状は世界標準の半分でしかない。日本社会はグローバル基準から見て、やはり大きく遅れている。
□  Women in STEM Leaky Pipe Problem
→ 小学校から中高、大学、大学院、技術者へのルートで理系から女性がいなくなってしまう問題。日本の女子は高校段階で27.1%にまで理系志願者が減少してしまう。
□ TIMSS(2019)・PISA(2022)
→ 理系の学力の性差は小さい。世界的に見れば日本の女子の理系の成績は優秀。であるにも関わらず理系に進む女性が少ないのが現状。
□ なぜ成績がよいのに理系に進まないのか?
→ ジェンダーステレオタイプが要因として大きい。保護者・メディア・学校といった外部環境のジェンダー観によってこの課題が生まれている。
□ ステレオタイプ:人は幼児期から大人のステレオタイプの影響を受ける
→ BBCの実験:玩具や子どもの名前によって大人が幼児に接する行動が変わる
□ 教育環境に隠れたジェンダーバイアス
→ 生徒会長・理科の実験・家庭科の授業などでの女性→様々な調査からも理想と現実にGAPがある
□ 日本とイギリスの比較研究:東大カブリ研究所(横山教授)
→ 数学・物理に対する社会規範やイメージが大きく作用する。
→ 性役割についての社会風土から、「頭がいい女性に対するネガティヴイメージ」がある点が日本社会の特徴(イギリスとの比較)
□ 社会が変わっていないことの責任も重い。
→ セクハラ・アカハラのあるところに子どもを通わせたい親にいない。保護者にも応援したい気持ちがあっても不安も大きいのが今の日本の学術の世界。
□ ステレオタイプを超えた先でも高い壁
→ 「女性研究者が少ない理由」は様々ある。家事分業が進まない日本社会での女性の負担が依然として大きいままであるなど。

【鴎友学園における齋藤明日美さんの経験】女子校という環境によって理系進学を後押しして貰った。
□ 文理選択においては、先生の後押しがあり、文系を考えていたが理系に進むことになった。国語が得意ということだけで文系と考えていた自分を変えてくれたのは先生の支援だった。
□ 数学科新野先生との出逢いが大きなキッカケだった。
□ 理系の素養を感じたら必ず先生には声かけをして欲しい。先生の一押しが自信に変わる。鴎友以外の学校でもそういう事例はある。
https://www.asahi.com/articles/DA3S14775203.html
→ 渋幕卒、米Smith CollegeでComputer Science専攻の仁ノ平和奏さんの事例
□ 一番大きなカルチャーショックは京都大学での体験
→ 女子が圧倒的に少ない環境での様々な経験=ジェンダーステレオタイプによる抑圧
→ ジェンダーステレオタイプに屈しなかったのは鴎友での6年間の経験があったからこそ。
□ 先生との対等な関係の大切さ
→ 先生はメンターであり勉強仲間だったが、それは勉強を楽しいものにしてくれた。先生との横の関係は、縦の関係とは異なり、自尊心を支えて貰えた。
□ 女子がリーダーシップを発揮する場が多くある場=生徒主体の女子校
→ Brave, not perfect! (女性がPerfectを求められBraveが求められないことへのアンチテーゼ)
→ 女子のリーダーシップが育っていることがチームワーク発揮にも非常に重要
→ 勉強しかしていないような人材ではエンジニアとしても活躍しにくい
→ 女性というラベルのない環境で「女性」ではなく「人」として育てられた
→ こんなに勉強してきたのに、「女子は結婚すれば良い」という考えを押し付けられることがあったが、それには負けなかった
□ 優先順位が「産休・育休>自分のキャリア開発」になっている就活女性が多いことにも疑問を感じる。
→ やりたいことを追いかける、社会通念より自分を大切にする考え方が重要
□ アメリカで答合わせ:京大を出た後アメリカの大学で修士に進学
→ Waffleで目指したのは女子にとっての「温室」(阻害要因が多い環境では育つことができない。守られる環境としての女子校)と「予防接種」(ジェンダーステレオタイプに負けないための準備)

【STEM分野における女性が少ないという課題の解決に向けて】
□ 固定概念を変える

1)理系=数学ができる人という固定概念
2)理工系=将来は研究者という固定概念:「薬や看護=手に職」は古い
3)偏差値至上主義という固定概念

→ 理系に進むのであれば、数学ができなければならない、という考えを改めることが必要。理工系は研究者にしかなれないというキャリア観がまだまだ根強く、理系でも看護や薬学という風潮があるが、その価値観は古い。偏差値至上主義から効率的な早期の文理選択が推奨される傾向があるが、文理の意思決定を遅らせることも重要。この文理選択こそが日本の水漏れパイプ問題の大きなトリガーとなっている。 アメリカでは大学2年時に文理選択が行われるが、15~16歳で文理に分けることの弊害は男女を問わず大きいのではないか。

□ 女子枠で理系学部に入学するというシステムには批判もあるが、その大半は入試で勝っていないから駄目というもの。しかし、女子枠で入学した学生は入学後も良好な成績を収めていることについては、山田進太郎 D&I財団調査でも明らかになっている。同様に総合型選抜による入学者は一般受験入学者よりも劣るといった通説にも様々な反証が出てきている。偏差値至上主義からの脱却が必要。
□ 「問題を解く」という授業や評価からの脱却も必要。鴎友の生物と化学の授業は特殊だった。(例)ふぐや蛙の解剖の授業・多数の白い粉を特定しなさいという化学の謎かけ授業など。
□ タフツ大学の取り組み:入門授業の多様化
→ エンジニアリングの授業の導入の入口を多種多様な生活の中の具体的な活用例と結びつける講義を新設したら理系に進む女子が増えた。
□ 中高一貫校では先輩が身近なロールモデル:社会人より大学生との交流のニーズもある。
□ ロールモデルやピア効果も女性の理系進学者を増やす鍵となる。
□ アメリカの事例(1) Women in CS
□ アメリカの事例(2) Grace Hopper Celebration
→ アメリカのTopスクールにおいては女性の割合が半分になっている。他国のジェンダーギャップ解消の成功例を是非参考にすべきではないか。
□ 技術にはまだまだジェンダーの視点が不足している
→ 性差のみならず、あらゆるマイノリティを視野に入れたScience, Technologyの進化が必要

【質疑応答とディスカッション】
① 数学による理系進学のスクリーニングが教育現場で行われていることもまだまだあると思うが、この問題を解決するには?
(吉野先生)
□ 教員と生徒の縦の関係の改善が出発点になることもあるのではないか?
→ BYODなどをキッカケに先生が常に優位でなくてもよいという流れが作れるのではないか
(齋藤さん)
□ 受験に向かって先生と共に学んだという経験が大きかった
→ 女性教員がロールモデル・対話しながら学べた
→ 男性教員にありがちなマウントタイプではない教員からの支援が大きかった
(議論の中で)
□ 教員の規範意識や価値観の課題もあるが、現場リソースという課題もあるのではないか?数学の専任教諭が少ない学校であれば、多様な生徒への支援はどうしてもリソース不足に陥りやすい。
□ 数学に限らず、非正規拡大によって学校経営を効率化するような学校では、子ども達の文理選択を含めた細かいニーズへの対応は難しくなる。
※ 中学受験の学校選択指標の中に、ST比率(先生1人辺りの生徒数)や専任教諭占有率などが話題になることはほとんどないが、そうした視点も必要。進学実績が出ているから内実は関係ないとしてしまえば学校の支援が子ども達の進路実現にどの程度貢献しているのかも、本当は分からないはず。
□ 鴎友学園の事例
→ 少人数制などの環境整備を行った。教員の余裕がなければ、水漏れパイプ問題も解消しない。科目によっては1名しか選択者がいなくても授業を成立させるなどの例もあった。

② 舞田敏彦さんのデータにアクティヴラーニングなどが普及している国ほど理系進学率が高い(男女問わず)というデータがあるが、鴎友での特徴的な授業や学校の進化についてご紹介下さい。

□ 現芝国際校長の吉野先生より:中学1年生段階で男女の発達段階の差があることを共学校で体感している。特に中学生段階でのコミュニケーション能力については、明らかに女子>男子が現状。それに対して数学ではm男子が問題を解く喜びを簡易安く、女子はなぜ?に躓く生徒も多く見られる。この結果、共学校では、どうしても数学ができるのは男子というバイアスが教員に生まれやすい。
□ 鴎友学園の理科は実験を中心・仮説実験授業を早期から取り入れてきた。
□ 鴎友学園の理系:30年前から看護や薬学よりも理工系が多かった。
□ 理系という言葉の解像度が低いことも理系=数学というイメージを強化しているのではないか?
→ タフツ大学の入門授業の多様化が参考になるのではないか?

③ 「STEM分野の女性を増やす」という課題解決と同時に取り組むべきこと

□ 文理選択を中高時代の決定とし、その後のキャリア形成に繋がるという構造を維持するのではなく、大学進学後や社会に出てからの変更・流動・学びのチャンスの提供も必要な社会課題ではないか?
□ テストは「競争心」を重視した評価軸であり、多くの社会では男性に有利に働く。女性の競争心が強い家父長制とは真逆の部族では、女性に有利に働くことも知られており、今後の多様性尊重や共生を考える社会に繋がる評価としては、チームワークが必要な評価に変える必要もあるのではないか。アメリカの大学などでは意図的に課題の難易度を上げて、競争心ではなくチームワークが必要な課題提示に変えて、この課題解決に取り組むところもある。
□ 文理に関わらず、指導・支援体制のUpdateが必要。性差のみならず、様々な学習適性に寄り添う、支援可能な仕組み作りが必要。
※ 日本の小学校は「小1プロブレム」と称し子どもの主体性を潰し、おとなしく座らせる指導が問題、といった批判があるが、30名を超える6~7歳児を1人の教員がマネージメントしろということ自体が無理ゲー。その点を度外視して、全ては教員の意識の問題とするような発信は有害ですらある。教員の意識や知識のUpdateとあわせて、仕組み・構造の見直しも同時に行う必要がある。
□ 高校生段階での文理選択以降のキャリア形成の単線化・固定化が将来の正規・非正規格差に繋がる低流動社会に繋がっている点にも問題意識を持つ必要がある。

 

 

 

 

 

 

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