女子教育研究会FEN 第12回オンラインイベント 「女性研究者のWell-beingをめぐって」

今回のオンライン学習会は静岡理工科大学准教授の谷口ジョイ先生にご登壇頂きました。

谷口先生は、まだまだ「男性中心の研究」の世界で、「女性」として「方言」を研究されている方です。
私たち女子教育の現場にある者は、ジェンダー課題を多く抱える社会に向かうマイノリティである女性の支援の場にあるわけですが
谷口先生の生き様から、非常に多くの貴重な学びを頂けるイベントとなりました。

谷口先生は研究者として、マイノリティの立場と視点を大切に研究に従事されています。
今の日本社会の構造が、どうしてもマジョリティの立場と視点を中心にしており、その中で「多様性」を言いながら
「多様性」を大切に出来ていないという現状を感じました。これは大きな課題だと感じます。
非常に深刻な現状の課題を可視化して下さったという意味において、この研究会にとっても貴重な視点を頂けたことに心より感謝申し上げます。

第一部 女性研究者のWell-being

・2008年 32歳 大学院進学 次男誕生
・2009年 33歳 大学院2年目  長女誕生
⇒ 出産という大きなイベント、育児と大学院進学、研究、論文執筆

・2010年 34歳 大学院博士課程入学
・2012年~13年 メルボルン留学(子連れ)
・2017年 博士号取得
⇒ 家事・育児はパートナーにフリーライドして研究に専念する研究者も多い中で、これだけの負荷を抱えながら博士号を取得されたことには、ただただ驚きと敬意しかありません。
谷口先生は、「知りたい」という自分の好奇心を捨てずに、人生の他の様々なものも抱えながら、41歳で博士号を取得されるまで駆け抜けた訳ですが、そのことに、私たちは大きな勇気を頂きました。
研究会代表の前田先生からも、「忙しい」を理由に「学び」「好奇心」を捨てることなく、大切にされた素晴らしい生き方へのリスペクトと、これからの日本社会を生きる多くの人達にも、そのような生き方が出来るような環境になることを望むという言葉がありました。谷口先生ご自身からも、少しでも「学問とともに生きる」ことで自分が抱えた阻害要因がこれからの社会で少なくなるようにしなければという想いも発信して頂きました。

・論文執筆は毎朝3:00~5:00 に習慣化
⇒ 最初は谷口先生も、「論文は気が向いたら書く」「論文は何かが降りてきたら書く」とされていたそうですが、それでは駄目だと一念発起し、朝型なので自分が最も集中出来る時間に必ずやるようにされたそうです。これ、受験生にも聞かせたいお話でした。なかなか分かっていても出来ないことだと思います。

・家族と過ごす時間を大切にする(17:00~21:00)
⇒ 後半のWell-beingに触れた箇所で、鈴木恭子研究員(労働政策研究・研修機構)の資料で出てきますが、日本人のライフワークバランスの悪さが日本人のWell-beingの課題として挙げられています。
谷口先生はお忙しい生活であるにも関わらず、ご家族との時間を大切にされていることが分かります。仕事を理由に家庭を顧みないといった生き方は、その当人も幸せにはしないのだということだと感じました。

・女性研究者をめぐる現状
⇒ ダントツで低い女性研究者の比率(16.9%)に驚かされます。韓国もジェンダー課題でよく話題になりますが、21.0%と日本よりは高いです。先進国は30%~40%台ですから、日本社会の異常さが分かるデータでした。また、要因としては、「職場環境」「男女の社会的分業」「評価者が男性を優先する傾向」「(女性にだけ求められる)家庭と仕事の両立」「出産・育児後の復帰の困難さ」など、日本社会が抱える問題が明確に出ていました。

・谷口先生の3大原則
⇒ 「頼る」「気にしない」「競争しない」:苦手なことは周りから受援で乗り切る(夫が料理を担当)・育児で早く帰ることに向けられる視線を気にしない・研究に全振りしているような人と競うのではなく、置かれた環境で最善を尽くす といったお話がありました。それでも、相当な心理的重圧があったことは想像に難くありません。

・谷口先生のWell-being = Work Life Balance 
⇒ 研究会の後半で、「谷口先生がWell-beingを訳すとしたら、どんな日本語になりますか?」という質問が参加者からありましたが、谷口先生のお答えは「あらまほしきさま」でした。
本当はそうであるべきなのにそうなっていない現状を変えて向かうべき先、ということになるでしょうか。Well-beingを心の持ち方に閉じ込める発想とは真逆に外に向かう大きなエネルギーを感じさせる名訳ではないかと感動しました。

第二部 「Well-beingの魔法」(Z会ソリューションズ)の編集者 柳沼希世子様と谷口ジョイ先生との対談
⇒ 編集の厳しい現場でご活躍されている柳沼様と谷口先生との対談では、マジョリティ側にマイノリティが配慮や気遣いをせざるを得ない現実が多く話題となりました。参加者からも、心ない言葉を向けられた経験が出されましたが、「誰かが生きづらさを感じるような価値観の発信」は結果的に、誰もを苦しめる社会を作ってしまう。実体験から語られるお二人のお話から、多くの気付きや学びを頂けたことに感謝です。

その後も参加者を交えて、社会言語学に関わる話や「方言を守ることの意義」など、ジェンダー課題・Well-beingから話題は広がっていきました。

今後も引き続き学ばせて頂くことになります。
谷口先生、柳沼様、本当にありがとうございました。

 

 

 

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