鮫島慶太鮫島慶太

女子教育研究会 第7回 学習会 「性差と環境を考える」 ― 女子のEmpowermentを実現する教育を目指して

中央大学文学研究科教授 高瀬堅吉先生と神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科 准教授 津野香奈美先生にご登壇頂きました。

https://keitasfen.wixsite.com/my-site

お二方とは、3月3日、立命館大学大阪いばらきキャンパスで行われた日本発達心理学会第34回大会でご縁を頂きました。

高瀬先生が主催された「シンポジウム・環境がつくる性-環境の影響の性差」に、女子教育研究会FENに参加のお誘いがありました。伊藤先生が女子教育研究会FENを代表し、「中高一貫女子校の環境が生徒のジェンダー意識に与える影響」というテーマでご発表、高瀬先生・津野先生・伊藤先生のパネルディスカッションでは私がファシリテーターをつとめました。

今回の女子教育研究会FEN第7回オンライン学習会の概要は以下の通りです。

□高瀬堅吉 先生 中央大学文学研究科教授

・ 正しいScience Communicationを目指して 

 性差についての通説が教育現場に持つ影響は大きい。ジェンダーバイアスを持つ指導者が指導すると男女の学力格差も広がることがIATなどを用いた実証実験で知られている。もちろん、発信を行う学術の側にも十分な配慮が必要だが、メディアなどを通して発信される内容は意図的な切り取りや拡大解釈などもあり、必ずしも発信側がコントロールできるケースばかりとは限らない。今回は中央大学文学研究科教授の高瀬堅吉先生をお招きし、「性差」について広まっている通説が実は環境という条件を無視できないことについて、高瀬先生の実際の研究成果を通じてお話頂きます。

□ 津野香奈美 先生 神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科 准教授

・健全な組織運営のためのリーダーシップ

 Well-being,リーダーシップなどが教育の世界でも話題になるようになったが、様々な角度から研究が進むこうしたテーマは既存の組織にとって都合の良い部分だけが切り取られて扱われることで、改善が必要な現実の課題に蓋をした上で粉飾する材料として用いられ、組織の変革に繋がらないケースも珍しくない。厚生労働省や日本産業ストレス学会など多くの場所でパワハラ問題に関わってこられた神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科 准教授の津野香奈美先生をお招きし、「組織開発において大きな阻害要因となるパワハラに繋がるリーダーシップとは何か」を性差の観点からの考察を中心にお話頂きます。学校現場でも教員、生徒など個人が組織のリーダーシップを発揮する場面は多くありますが、学校現場でも注意すべき点について学びを深めたいと思います。

(以上、女子教育研究会FENのHP告知でも掲載した内容です)

まず、高瀬先生、津野先生のなさっている研究が、「市民社会への貢献」であることを強く感じました。あくまでも私見ですが、大学債の報道やCSTI発信の教育改革に対する大学の姿勢を見ていると、正直、大学は国家と資本を支持基盤に存続を考えているように見えることがあります。もちろん、それが丸ごと悪いとかけしからんということではなく、様々な研究が広く社会のために活かされるのであれば、それはそれで結構なことなのですが、高瀬先生、津野先生の取り組みは、市民社会に生きる市民と市民社会に存在基盤を強く持った研究だと感じました。

高瀬先生のご発表からは、私たち教育現場の教員がいかに「しろうと理論」を確証バイアスで強化して使ってしまうのかというリスクを認識させられました。高瀬先生のご発表内容はもちろんですが、研究に対する真摯な姿勢そのものからも私たち現場の教員は多くを学ぶべきだと思います。

性差に関する論文・理論が、どのレベルのエビデンスを持つものなのか、研究者の属性によってもバイアスが入る可能性はないのか・・・。そもそも「流行の性差理論」に飛びついた自分はポジショントークをしたいだけではないのか?

「ゴミを入れたらゴミが出てくる」Garbage In, Garbage Out 

メタアナリシスという比較的高次のレベルのエビデンスでさえ、Criticalに受け止めなければならないことを強調され、Science Communicationの重要性を中心に分かりやすくお話下さいました。

その上で、動物実験の検証から、従来性差があると考えられていた実験結果が、「環境が性差の発露を促進していた」だけであり、「環境を変えることで性差の発露が抑えられ、性差が見られなくなる」といった具体的な事例があることをご紹介頂きました。もちろん、動物実験の結果から、自分に都合のよい理論やイメージを膨らませることがないように十分注意しなければならないのですが、私たちが日々生徒達と接する学校という環境についても、環境の一要因である私たち教員や保護者、教育関係者も含めて、1人1人の子ども達の阻害要因となるものはないのかを真剣に考えなければならないことは間違いないと確信しました。特に学校だけでなく、社会は男性中心に設計されているものが多いのかも知れません。また、性別だけでなく、特定の学習特性や多数派の特性にとってのみ居心地のよい場となっている可能性もあります。様々な視点から社会を考えることは容易なことではありませんが、私の大好きな「ロールズの無知のヴェール」にも通じる話として受け止めました。ヴェールを被っても世界の見え方が変わらないようでは、恐らく何も解決しないし、変えられないですから。高瀬先生の研究は、成熟した市民社会に向かう市民の意識のUpdateに繋がる素晴らしい研究だと改めて感じました。

津野先生のご発表は、勤務校である共立女子学園が発信している「リーダーシップ教育」https://www.kyoritsu-wu.ac.jp/leadership/ の観点からも興味深く拝聴させて頂きました。

まず、組織を破壊するリーダーシップとして、専制型リーダーシップ・放任型リーダーシップがいかにハラスメントを助長するのか?について、様々な研究事例とともにご説明頂きました。私のこれまでの人生経験職場での人間関係を振り返っても、津野先生の言葉は、一つ一つ強く納得させられるものでした。津野先生のご著書でも触れられていましたが、研究の出発点になる「課題意識」が、先生ご自身のご経験から生まれたものであり、現在の社会で苦しむ多くの人を救うためのものであるということが伝わってきました。

また、放任型リーダーシップがもたらす「無言の承認」という課題についても、大人・子どもを問わず、特に閉鎖的な集団の持つ問題の本質を深く考えさせられます。

いじめの問題の大きな要因がパワハラと同じ性質のものであることは、個人的にずっと感じてきましたが、先生の発信は日常における私たちの生き方を問いかける重要な発信だと思います。

「無言の承認を防ぐための具体的な方法」については、私たち大人を含めて「何もしない」ということは許されない。見て見ぬふりこそが問題を大きくする。無言で放置することは、リーダーのみならず、1人1人の市民である私たちが課題だらけの現状を承認してしまうことになるのだということを自覚し、声をあげる勇気をそれぞれが持てる環境・社会を創らなければならないと強く感じました。

女性のリーダーが日本において少ない理由についても、一次資料や研究成果を基に多角的な視点からご説明頂きました。5つの理由をご説明下さいましたが、特に日本におけるジェンダー課題は男性である私たちの側により多くの改善が必要であるということを改めて認識させられました。また、ジェンダー課題の解決は、女性だけのために必要なのではありません。男性もマスキュリンな社会規範の中で息苦しさを感じることは少なくありません。もちろん、Comfort Zoneにこもってばかりいることを肯定はしませんが、そもそも安心・安全を感じる居心地の良さすら感じられない息苦しさを組織が持ってしまうことは珍しくないと思います。性別を問わず誰もが生きづらさを感じない社会・環境を創ることの重要性を改めて感じました。また、女性ロールモデルの少なさ、敵対的性差別だけでなく、むしろ好意的性差別がもたらす影響の大きさについては、津野先生の発表が今後の研究会でも大きな学びのスタートになりそうです。

高瀬先生、津野先生、貴重なご縁と学びの場に心より感謝申し上げます。ありがとうございました!

 

 

 

 

 

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