鮫島慶太鮫島慶太

New Treasure 5 Lesson 10 デカルトのお話

中学1年生でNew Treasure 1を採用して以来
5年が過ぎようとしています。

そして、ようやくたどり着いた
New Treasure 5 Lesson 10。
最後に待っていたのは…
デカルト物心(実体)二元論と
意識の謎という難解なテーマでした。

久しぶりに生徒には全訳を指示し
代名詞やディスコースマーカーについても
かなり突っ込みを入れながら授業しました。

also を「~もまた」と訳したけど
「Aに加えてB」もだよね?
ここでAにあたるものは何?

Soを「それで・そういうわけで」と訳したけど
一体どういう訳で?

マニュアルでさえ訳の間違いもある英文に四苦八苦しながら
どこにいくのか分からない授業展開にやっている私自身は
わくわくしましたが、生徒は大変だったようです。

日頃センター試験型の表面的な情報処理に慣れている
今の世代にとって、文章を深く読むということは
なかなかハードルが高いようですね。

ただ、私が気になったのは、そんなことよりも
今の若い子たちが「分かりやすい解説」に慣れている
ため、「理解が浅い」のではないか?
ということです。

現場の教員の説明能力は私が学生の頃よりもはるかに高い。
巷にあふれている参考書の類も入試に対して非常に親切な
Solutionになっているものが多い。

だから、入試英語が難しくなっていても
学生達はそれらを活用しながら高い得点能力を身に付ける。

でも、だからなのでしょう。
日本からジョブズが生まれないのは。

例えばアインシュタインの相対性理論にしても
発表当時は理解している人はごく限られた人間だけ。
でも今では、「サルにでも分かる相対性理論」的な本が
溢れ、ピタゴラスの定理から時間が伸び縮することは
簡単な計算の結果として提示され、それを私たちは
理解した気になってしまう。

でも、アインシュタインはそんなレベルの人ではないわけで、
誰もがニュートン物理学の世界を信じて疑わない世界観を共有している中で
当たり前を疑い、真理を発見した。

デカルトにしても同じで、脳に電極を埋め込むなんて技術の無かった時代に
数学的思考と想像力だけで、人間の意識の謎に迫ろうとした。

教科書ではデカルトの二元論は人間の意識の謎を自由意志の問題や
松果体における心的物質的要素の相互作用としか提示できなかった
ため失敗だったとさらりと書いてあるけど、そんな単純な話では決してない。

二元論とからめて、善悪二元論、心身二元論、フッサールの現象学
身体論、メルロポンティーやウィトゲンシュタインなどの話も参考までに
授業で触れましたが、そうした話を聞いたとしてもデカルトの懐疑のすごみ
の断片すら伝わらない。そういうものです。そんなに学問は甘くない。

「現代は二元論を乗り越えて、新しい時代に・・・」

そういう解説をした教員もいるようですが、申し訳ないけど笑ってしまいます。
ある文化人類学者によれば、現代人のほとんどが二元論的世界観で日常を
過ごしている訳で、そんなに単純な表面的な理解で話は終わらない。

そもそも、我々の多くには二元論的な世界観で生きているという自覚すらないし
二元論を土台とした世界観が自分の生きている世界でどんな問題を生むのかについても
考察すらほとんどしないわけで・・・。

日本にはジョブズが生まれない・・・。
それは

「安易に物事を理解したと思ってしまう姿勢」
「目の前の当たり前を疑うことをしない生き方」

なのではないでしょうか?

Solutionばかりが巷に溢れているせいで、
How to 本ばかり読んで、安易に何かを身に付けようとする

Critical Thinkingもプレゼン能力もそれだけでは
決して何も産み出さない。

そんなことを考えながら、
理解に悪戦苦闘する生徒の姿を頼もしく
感じてしまいました(生徒はたまったものではなかったかな?(笑))。

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ESN英語教育総合研究会

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