女子教育研究会FEN オンライン学習会 No.16 女子STEAM教育の課題を考える

前半はこれまでの女子教育研究会FENで扱ったSTEM教育関連の振り返り、後半は元NHKプロデューサー・現近畿大学教授の村松秀先生をお迎えして女子STEAM教育の課題について考えるというテーマでお話を頂きました。参加者からの質疑応答にもとても丁寧にお答え頂き、貴重な学びの機会となりました。心より感謝申し上げます。

<前半> 女子教育研究会FENの振り返り(詳細については過去の記録を参照して下さい)

□ No.1 吉野明先生 女子には女子にあった環境や学習方法がある、という視点から鴎友学園でのSTEM教育を含めた様々な取り組みをご紹介頂きました。
□ No.2 コアメンバー鮫島 「女子は理系が苦手な子が多いのは本当か?」というテーマで、最新の研究の成果を幅広くまとめた内容を発信しました。
□ No.3 石井豊彦先生 品川女子の28プロジェクトをご紹介頂きながら、ロールモデルやPBL体験が女子のSTEM教育やキャリア形成に大きな影響を持つことを発信頂きました。
□ No.5 橋本三嗣先生 広島大学附属中高における理系女子の実例をご紹介頂き、「女子校=女子教育にとって最善の環境」というわけではないということ、共学校でありながら理系女子が優位であること、また、日常の学習で理数の成績がよくない生徒でも国際舞台の発表を行うなど、必ずしもペーパーテストで理系適性や研究成果を測れる訳ではないことなどをお話頂きました。
□ No.7 中央大学高瀬堅吉教授 これまでエビデンスがあるとされてきた性差については、環境要因が実験結果をゆがめた可能性があることをご指摘頂きました。高瀬先生の研究により、ラットの実験では、餌を変えたら空間把握能力における実験結果で性差が見られなかったというご報告も頂きました。
□ No.12 静岡理工科大学谷口ジョイ教授 そもそもSTEM分野の研究に女性が少ないのは、教育の先の研究環境にもおおきな課題があるという現状をお話し頂きました。
□ No.13 Forbes Japanで日本の注目若手30選にも選ばれた斉藤明日美様 STEM分野のジェンダー課題に向き合う活動をされている現場について興味深いお話も多く頂きました。AIがジェンダーバイアスを再生産する、学年が上がるにつれ理系女子が少なくなる水漏れ問題、セクハラやアカハラなどの現状についても広く貴重なお話を頂きました。
□ No.14 厚生労働省所管研究機関JILPTより鈴木恭子研究員 偏った日本のWell-being指標の問題を出発点に、企業中心社会や就業分野における環境が女子に限らず多くの人達のキャリア選択を妨げている現状を詳細にご説明頂きました。
□ No.2  コアメンバー鮫島 日本の男子の理系職志望率は下から8位、女子は最下位という結果を、教育研究者の舞田敏彦さんが指摘されています。つまり、日本はPISAで世界最高レベルの理数成績をおさめながら、男女ともに理系に進む人材の割合が低く、更にジェンダーの格差もある、というのが正しい見方なのではないか?ということです。
→ STE(A)Mの課題をジェンダー課題の視点だけから考えるのではなく、もっと大きな視野で考える必要があるのではないか?
→ 番組製作の現場で、理科離れしているような中高生や若者向け(またはサイエンスから遠い大人も含めて)の科学教育番組を教育テレビで開発してこられた村松秀先生にお話を伺う(今回の研究会)

<後半> 女子STEAM教育の課題を考える
※ 以下、内容についてのメモですが、村松先生のお話は非常に分かりやすく丁寧に構成されていたものの、リニアに展開を追って理解できるようなものではない、と感じました。一つ一つの言葉が、「それしかない」という次元で精選されたものであること、また「こうすればいい」という単純な課題解決の解答なのではなく、一つ一つの番組や大学での取り組みに、全身全霊で向き合い丁寧に創り上げてこられた営みであることを感じました。ですので、以下のまとめについても、マニュアルのように読んでしまっては意味がないのだと思います。時空が変われば、再現性があるものではないでしょうし、誰もがこうすれば上手くいくということでもないと強く思います。ただ、過去の一つ一つの取り組みについても、「成果」から「正しさ」を保証されたということではなく、常に「検証」の対象として村松先生の頭の中では生き続けている、そんな印象を持ちました。「検証可能性について開かれている」・・・科学哲学者カール・ポパーが反証可能性を科学的基本条件と見なしたように、サイエンスの基本姿勢を誠実に守り続けているのが村松先生の凄さだと感じます。以下のメモは参考程度にご覧下さい。

【自己紹介】
□ 近畿大学 村松教授ゼミ生 13/16人が女子
□ 中高一貫の男子校出身
□ 東京大学工学部卒業
□ 1990年 NHK入局 「科学の番組を作りたい」
□ 32年で半分が科学系の番組・半分は新番組の開発に取り組む(数百本の番組を製作)
□ 番組以外にもフェスティバル・イベント・CDプロデュースなど多面的に活動
□ 東大名誉教授 西永先生 → 「これから科学の世界が深く細くなるので社会と科学の架け橋になりなさい。」(大学卒業時に村松先生に向けたエール)

【NHK時代の活動】
□ 【番組】環境ホルモン汚染・生殖異変・サイエンスアイ・史上空前の論文捏造・ためしてガッテン(生活科学番組)・すイエんサー(番組シンボルのベンチは近大研究室に)・マサカメTV(まさかの目のつけどころ)・さし旅・もふもふモフモフ・ガンバレ!引っ越し人生・ダイゴ味!TV・世界ネコ歩き・世界わんわんドキュ・体感トラベル瀬戸内国際芸術祭・日本エコー遺産紀行 ゴスペラーズの響歌(残響時間についてのステルス科学コミュニケーション)・オーケストラ 孤独のアンサンブル・コロナ時代の人情酒場
□ 【イベント】すイエんサー広島イベント/渋谷イベント・NHKサイエンススタジアム2013(日本科学未来館)・NHK共生へのアンサンブルコンサート・
→ 仕事のカテゴリー=科学・アート・教育・イベント・番組 
→ 全てにおいて、<公共>を第一に考えた活動を行ってきた

□ 女子STEAM教育 をどう考えるか?(NHK時代の取り組みを振り返って)
→ 男子のため・女子のためということを考えずに活動を行ってきた
→ 科学そのものを根本から捉えているかどうか?が重要

★ 村松先生が撮影された何枚かの写真の紹介
□ 村松先生の写真から参加者への「問い」
→ 詳細は割愛します。映像製作に取り組んでこられた方ならではの問いだと感動しました。

□ 「すイエんサー」という番組の本質
→ 編成からのオーダー::理科離れしているような中高生や若者向けの科学番組を教育番組を教育テレビで開発せよ+新規の視聴者を獲得せよ
→ そんなことを言われても、と悩み、トコトン考えた。

【すイエんサー製作で取り組んだこと】
□ すイエんサーに登場する「ベンチ」の意味は?
□ 番組の空気として大切にしたことは?
□ 科学という言葉をあえて使わなかったのはなぜ?
□ グルグル思考とは?

※ 上記の問いについての答は村松秀先生のご著書「女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?」に収録されているものもありますので是非お読み下さい。

□ すイエんサーは「成果」「情報」ではなく「わからなさ」と向き合うプロセス!(科学の本質)
→ すイエんサーガールズからの反応は?

【科学に何が起こっているのか?】
□ 史上空前の論文捏造
→ 起こるべくして起こる捏造・疑惑(頻発する科学の世界)
→ 科学を取り巻く世界で失われているかもしれないものとは何か?

□ 一般の市民にとって科学とは?
→ ノーベル賞のニュースについても表面しか理解されない
→ 科学に対して市民が間違った解釈をしているのではないか?

□ グルグル思考を育む7つの知力 
→ すイエんサーガールズに知力はついたのか?
→ 名門大学生達との真剣勝負! (結末は村松秀先生のご著書「女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?」

知力を育むグルグル思考の必要性

□ 寺田寅彦 「目を開いて自然そのものを凝視しなければならぬ。これを手にとって右転左転して見なければならぬ。そうして大いに疑わなくてはならぬ。「知と疑い」

□ 2022年 近畿大学での取り組み(映像を軸に、新しいコトづくりをプロデュースする)
→ 近大でのコトづくり
□ 近畿大学総合社会学部村松ゼミと総合地球環境学研究所がゆるキャラ「地球犬」が活躍するSDGsステージショーを開催
□ 布施商店街の歴史を物語る、河内弁の「のぼり旗」を約80本掲出 総合社会学部村松ゼミ生が、古くて新しい言葉の風景を商店街に創出
□ 朝ドラ舞台になった90年代の東大阪 「舞いあがれ!」のあの頃を、近大生がインスタレーション作品に
□ 近畿大学総合社会学部生が総合地球環境学研究所主催イベントに協力 アートとサイエンスを融合した展示から、地球環境について考える
□ ユニークに音が響く、大阪の「エコー遺産」でアカペラを楽しむ 総合社会学部 村松ゼミが、名建築の新たな魅力を引き出すツアーを実施
□ 「大阪城・超ランドマーク化計画」
→ 「思考の絶対量を増やそう」

質疑応答については、様々興味深いものが多数出ましたが、ここでは割愛させて頂きます。
最後に話のテーマになったのは、「グルグル思考に相応しい学びの場」です。

受験勉強のようなプレッシャーが「グルグル思考」に敵したものではないことは参加者で共有したものの、最近よく言われる「心的安心安全」が確保されれば「グルグル思考」が生まれる、というほど単純でもない。「コト作り」に取り組んでこられた村松先生は、「場作り」のスペシャリストでもあるのではないか、最後にそう強く感じました。

 

 

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