女子教育研究会 第9回 学習会  2023年8月19日(土)20:00~21:30  「ウェルビーイングって何?」

今回のイベントは女子教育研究会FENのコアメンバーである西尾克哉先生の主催する「未来教育研究会」との共催で実施しました。

1 基調講演 「ウェルビーイングの魔法」 柳沼希世子氏(Z会ソリューションズ編集者)
2 討議 「ウェルビーイングって何?」
  山下知子氏 朝日新聞者社会部次長
  森山和世氏 共立女子中学高等学校教諭
  真鍋和可氏 東京都板橋区立上板橋小学校教諭
  石川夏美氏 ベネッセコーポレーション編集者
3 質疑応答
  司会 西尾克哉氏 (滝川第二中学高等学校教諭)

前半は主催の私のZoomのアプリのUpdateが上手くいかず、基調講演での資料共有が出来ないというトラブルが発生してしまいました。
柳沼様には大変ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございませんでした。

会の予定は上記の通りですが、昨今教育界や経営などの世界でも流行のWell-beingをテーマに
慶應義塾大学の前野隆司先生監修のご著書「ウェルビーイングの魔法」の編集者である柳沼様より
ウェルビーイングについての丁寧な説明を行って頂きました。概略は以下の通りです。

1. 自己紹介
2.『ウェルビーイングの魔法』
3. Well-Being
4. 日本の教育とウェルビーイング
5. 幸せは自分でつくれる!

この本を世に出された柳沼様の出発点が「コロナ禍で子どもたちの心が内向きになりがち……
心の整え方を伝えたい。」

という想いであったことに、まず心を打たれました。
マスク生活が当たり前で、子ども達の行事も日常も大きな影響を受けていますが
恐らくこの影響は私たち大人がコロナなど忘れてしまう頃にも深刻な影響を持ち続けるのかも知れません。
そんな子ども達に何か出来ることはないか?と考える人も学校関係者を含めて決して少なくはないと思いますが
この本が「非日常によってあらゆる場を奪われた子ども達の心」に向けて届けられた本であることを
ウェルビーイングという概念を考える時にも忘れてはならないと強く感じます。

「アリアリナンヤ」という分かりやすいフレーズでWell-beingの4要素(ありがとう・ありのままに・なんとかなる・やってみよう)
を解説したこの本は小学校の現場からも非常に分かりやすく実践しやすいとの評価が多いとのことです。
「おかしも」「おはしも」なんて呪文のようなフレーズも防災訓練などでは使われますが、こうした工夫は確かに子ども達に浸透しやすい
ということを感じます。

ただ、教育の現場にある私たちは、こうした概念について正しい理解をしておかなければなりません。
なぜなら、Well-beingに限らず、現場の理解が浅かったりズレていたり歪んでいたりすると、指導としてマニュアル化
したものになってしまうからです。

柳沼様からは、Well-beingについての1946年WHO憲章におけるWell-beingの定義、2015年SDGsの第3のゴール、
2019年OECD(経済協力開発機関)Education2030プロジェクト 「ラーニング・コンパス2030」などの説明が丁寧になされました。
中教審の答申や産業界からの発信も増えている中で、そこに介在する様々な組織や人によって、解釈の変更や取捨選択が行われてしまう。
それがそのまま教育現場で教師という大人から子ども達に繋がってしまうことの怖さを考えると、こうした基本的な部分について
丁寧に理解しておくことがいかに重要であるのかを再認識させられました。

また、実際の小学校という教育現場でウェルビーイング・ダイヤログカードなどがどのように使われているのかといった
実例についてもお話があり大変参考になりました。

第2部では、柳沼様の基調講演を受けて、小学校の現場、私立中高の現場、教育産業、メディアで「ウェルビーイング」がどのように浸透しているのか、また
どのように「ウェルビーイング」を受け止めているのか、についての発信がありました。

まず、小学校教諭の真鍋様からは、「子ども達のSESを含むバックグラウンドが多様で、Well-beingについての授業でのリアクションも大きく違う。」
というご指摘がありました。私たち私立中高の教員に比べ、小学校では子ども達のバックグラウンド・SESなども非常に多様です。
そうした中で、「Well-beingの魔法」も刺さる子もいれば、心を整える以前の課題に苦しんでいる子もいる。
大人達がWell-beingを口にする時、こうしたバックグラウンドの多様性を意識しなければ、子ども達はあらゆる課題を自分の心の課題としてしまい
かねない、という問題はWell-beingに限らず、「上から振ってくる教育」を私たち現場が受け止める時に常に注意しなければならないことだと想います。
真鍋様のご指摘は、非常に重要な示唆に富む発信としてイベント参加者に共有されたのではないかと想います。

共立女子中学高等学校の森山教諭からは、「恵まれた家庭環境にありながら、「何とかなる」というマインドが一番欠けているように感じる。」というご指摘
がありました。森山教諭は私の同僚で同じ進路指導部でお仕事をさせて頂いていますが、これは私自身も感じてきたことです。
大学受験しか見えない視野狭窄だけでなく、教員の側も「これが出来なければ大変なことになる」という発信を無意識にしてしまうことが多いのかも知れません。
また、「恵まれた環境を与えられているのだから出来て当然」という周囲の期待も、実は心の苦しさの原因になることも珍しくありません。
そうした子ども達の心の整え方として、「アリアリナンヤ」という呪文がフィットするケースもあるのではないか、と感じさせられました。

朝日新聞者社会部次長の山下様からは、メディアでWell-beingが取り上げられるようになったのはごく最近であるというFactをベースにしたご指摘があった後、
「「自己責任」ではなく、「社会全体の課題」という意識が出てきているのではないか?」という発信がありました。また、ご自身の子育てのご経験からも
「なんとかなる」というマインドは「支えてくれる保育園があってこそのものだった」というお話を頂き、Well-beingは決して個人のマインドセットの問題
ではなく、社会全体の支援の課題なのだと感じました。

ベネッセコーポレーション編集者の石川様からは、「家庭環境が違うことは子どものWell-beingに大きな要素だ」というご自身の子育てのご経験からの発信の後
「大人も子どもも正解を求めることを重視し過ぎと言われるが、大人がそもそもそういう意識変化をしているのか?」という問題提起がありました。
この点も非常に重要な視点だと思います。探究・PBLといったことが「子ども達の課題」として扱われることも多いですが、そもそも大人達がWell-beingについても
大きな課題を抱えているのが現在の日本だと思います。生徒のWell-beingと教員のWell-beingも無縁ではないでしょうし、主体性にせよ何にせよ
昨今教育で重要と言われるものの中には、「日本人の大人がそもそも出来ていない」課題であるものが少なくないと感じます。

こうした発信を受けて、司会の西尾先生からは日本の現在の状況では、Well-beingが「心の整え方」に偏り過ぎで社会的全体性、特に地位財など衣食住への基本的な安心感
を保障する社会構造へ向かう動きがWell-beingを考える上で重要だという指摘がありました。この点は、小学校教諭の真鍋様のご指摘になった「子ども達のバックグラウンドの
多様性によって、Well-beingに関連する大人の言葉への子ども達の反応が様々であること」や山下様のご指摘になった「なんとかなる、を与えてくれたのは保育園の存在が
あったからこそ」といった発信とも強く関連すると感じました。

予定していた時間は20:00~21:30でしたが、一旦終了した後も残って下さった参加者が多く、なんと会を閉じたのは22:40過ぎ。
ただ、機器トラブルも含めて今回は裏方参加でしたが、運営側の反省点も多く出てしまった会となりました。

うーん、でも「なんとかなった」かな?(笑)
ま、研究会の「ありのまま」だし・・・。
とりあえず、Well-beingというザックリしたテーマで「やってみた」のは良かったと思います。
ご登壇者の皆様、参加者の皆様、「ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

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