鮫島慶太鮫島慶太

センター試験について⑥ 世界史B を解いて思うこと

センター試験の世界史Bについては
昨年のブログでも取り上げたことがありました。

今年は変わったのか?というと…。
変わりませんね(笑)。

センター試験の世界史B問題の特徴は

① リード文を読まなくても解答が出来るものが多い。
② 歴史についての考察ではなく知識量を試す問題が多い。

の2つだと思います。

今年は具体的にちょっと紹介させて頂きます。

①カール大帝
はアーヘンやパリを拠点としながら、多くの臣下を引き連れて広く王国を巡幸していた。
交通や通信の手段が整備されていなかった中世ヨーロッパでは、
②遠方から税を遅らせることが困難であり
自らの権威を示すためにも、君主自身が頻繁に諸地域を訪れる必要があったのである。

①カール大帝 に関連して、世界史上の皇帝の事績について述べた文として正しいものを選びなさい。

1) ナポレオン3世は、大陸封鎖例を発布した。
2) ヴィルヘルム2世は、社会主義者鎮圧法を制定した。
3) 則天武后は、国号を新と称した。
4) イヴァン3世は、ツァーリ(皇帝)の称号を用いた。

②遠方から税を送らせるせることが困難であり に関連して、世界史上の税や税制について述べた文として最も適切なものを選びなさい。

1) 漢の武帝は、砂糖の専売を行った。
2)ローマ=カトリック教会は、聖職者に対して十分の一税を課した。
3)北米の13植民地は、本国による課税に反対して、「代表なくして課税なし」と主張した。
4)イギリス支配下のエジプトで、ライヤットワーリー制が導入された。

世界史を履修されたことがない方でも、お分かりになりますよね?

①カール大帝の業績を聞く問題だとしてもただ知識を聞くだけのつまらない問題ですが
まぁ、英語だって国語だって「知識」を聞く問題も必要ですから、それなら分からなくもない
のですが、何故、ナポレオン・ヴィルヘルム2世・則天武后・イヴァン3世の話になるのか
さっぱり分かりません。大体、「下線部①と関連して」って何が「関連」なのか分からない。

②遠方から税を送らせることが困難であり に関連して?今度は何?と思ったら

漢の話? ローマ=カトリック教会? 北米13植民地? イギリス支配下のエジプト?

出来る生徒に聞くと、問題しか読まない子が多いですね。そりゃそうだ(笑)。

少なくとも、この世界史の問題で高得点取ることが世界史を学ぶ動機付けにはならないと思います。

私の個人的な意見ですが、こんな問題、勉強してきた学生に失礼なのでは?

私の感覚がおかしいのかな、と思ったのである世界史の先生にお伺いしました。

なぜ、こんな問題なんですか?

その先生のお話では

1)試験問題のリード文の記述が、ある特定の教科書だけに近いと有利不利がある不公平を
指摘される可能性がある。

2)歴史考察をした文章がある政治的な価値を含んだものであれば、「偏った歴史認識だ」
との指摘を受ける可能性がある。

ということでした。

なるほど、そういう事情があったんですね。

そんなことも知らずに、批判してすみません。作問者も気を使うことが多く大変ですね。

ただ、私が大人としてこの問題を見た時に、こうした問題に向けて若者たちに「歴史は面白いよ」
とはとても言う気になりません。

実は、教え子たちの世界史の成績が全体的に振るわなかったこともあり、なんとか勉強して貰おうと
昨年から神野先生という河合塾の先生の「世界史劇場講座」(You Tubeに動画があります)を紹介したり、私自身も神野先生の本を7~8冊買って、読んだら生徒に回し読みして貰うといったことをやりました。私自身も勉強してみないと生徒の気持ちも分からないかな、と思ったので。(本校の先生はとても熱心な方が多く、生徒が解いている定期試験の英語の問題をやってみたいといった他教科の先生もいらっしゃいます)

その他にも、池上彰さんと佐藤優さんの「大世界史」を読んだり、日本の戦後史をアメリカとの
関係で解説した本を読んだりしました。

面白いんですよ!本当に!

One piece より面白い!

と言ったら、「さすがにそれはないです!」と生徒に突っ込まれましたが
私も生徒も一晩で読んでしまうくらい面白いです。

世界史の問題作成をとりまく難しい状況や生徒の知的好奇心を刺激する作問が難しいことは理解しています。また、私は世界史について詳しい訳でもないので、「じゃ、お前が作れ」と言われたら出来ません。

でも、今のセンター試験の世界史Bの問題なら、教科書と歴史に関する解説文があれば
世界史の知識がない、あるいは世界史を勉強したことがない子どもでも作問出来るように
思うのですが・・・。

現場で世界史を教えてらっしゃる先生方は歴史を楽しいものとして生徒たちに熱く教えて下さって
います。でも、問題がこれでは・・・。

もちろん、授業は受験のためだけにあるのではないし、世界史を受験科目として選択しなければ
こんな問題達と出会う不幸もないかもしれない。

ただ、

「現代社会では社会人として世界史の教養が必要だ」

「だから世界史を必履修科目にすべきだ」

「でも入試科目でなければ、生徒は熱心に勉強しない場合が多い」

「それなら大学受験では理文を問わず入試科目にしてはどうか」

と言えますか?

私にはとても言えません。

なんだか受験生が気の毒になってきます。

恐らく、

「知識量を増やすには、結局理解して学ぶことが必要なのだからそれでもいいのでは?」

という声もあるでしょう。

もちろん、理解⇒知識 で学ぶ受験生が多いでしょうから、そう言えなくもないのかもしれません。

でも、中にはいますよ、「暗記パン」のように「画像」として大量の知識を頭に短期記憶として
詰め込めるタイプも。

「受験が終わったらどうせ忘れてしまうのに、何故暗記なんてしなきゃいけないのですか?」

と生徒に聞かれたことがありますが、私は次のように答えるようにしていました。

「細かい知識は忘れても、学んだことは血肉になっている。歴史を学んだことで無意識にでも
身に付いた思考法はある。大切なのは細かい知識ではないのでは?」

でも、さすがに問題がこれでは・・・。

受験生にとって、望まないにも関わらず、「作問者」は「神」です。

逆らうことが出来ない存在です。

そうした絶対者のポジションにいる人間が最低限持つべき良心を
センター試験の世界史に感じられないのは私だけでしょうか?

僭越なことは重々承知で取り上げてみました。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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