鮫島慶太鮫島慶太

2020年入試改革とブルーム型タキソノミー

2020年に入試が変わる。
それに向けて日本の教育も大きく変わらなければならない。

この問題は私たち中高の教員だけでなく、保護者、生徒の
多くを不安にしている。

どう変わるのか、具体的な姿が見えない、というのが
最大の要因だと思うが、果たしてこの変化が正しいものなのかどうか、それも分からないからではないか?

□ 今のままの日本の教育では21世紀の世界では通用しない。
□ 大学入試を変えなければ、中高の教育も変わらない。

□ 「知識・技能」はAIに取って代わられる。これからの仕事に必要なのは思考力だ!

これが事実なのか、妥当性があることなのか、妥当性がある
とすれば、具体的にどういうケースでそう言えるのか?

私自身は、全面的に賛成でも反対でもない。

ただ、文科省を中心とする「お上」が何を発信しているのか
を考えると、ちょっと不安になる。

学力の3要素として①知識・技能 ②思考力・判断力 ③主体性・多様性・協働性 の3つに分類しているのは分かる。
これ自体は間違っていないように思う。さらに細かい分類の方が望ましいとは思うが。

ただ、それをブルーム型タキソノミー(米国の認知・教育心理学者の思考レベル分類)に当てはめ、
①=知識・理解・応用 ②=論理的思考力・批判的思考力 ③=創造的思考力に対応させ、
①のレベルをLOT(Lower Order Thinking) ②③のレベルをHOT(Higher Order Thinking)という
西欧のシステムに単純に落とし込んでいる点がどうも釈然としないのだ。

まず、日本の教育を見直す時の出発点から、西欧のモデルをそのまま取り入れて、まるで縦のものを横にするかのようにアレンジして展開する。

これって、日本人の思想家や評論家といった人たちが昔からやってきたものすごく安易な姿勢と同じではないか?

もちろん、グローバル時代に対応すべく、他国のシステムや思想を学ぶことは必要だ。

帝国主義時代の再来とか新帝国主義とも言われる現代では、武力による植民地化ではなく、
「グローバルスタンダード(アメリカンスタンダード)」と呼ばれるルールに基づき議論し
負けないことが必要な場面も多いのだろうから。

しかし、問題なのは、ゼロから何かを考えようとする姿勢を今回の教育改革でも感じられない点である。

そもそも教育とは何か?
従来の教育の成果と課題は何か?
従来の入試システムの成果と限界は何か?
子どもの発達をどう捉えるべきなのか?

それを原点から考えてはいるのかもしれないが
「西欧の最新の教育理論に基づき・・・」という姿勢が
非常に安易で怖い。

私自身は不勉強でブルーム心理学について学んだことはないが
個人的にはブルームのような段階的な思考発達モデルに
経験的に違和感を感じてしまう。

①知識・技能(知識・理解・応用)
②思考力・判断力・表現力(論理的思考力・批判的思考力)
③主体性・多様性・協働性(創造的思考力)

この3つの要素というのは、もう少し細かい要素に分解された
レーダーチャート(多角形のグラフ)で表現するのが
妥当なのではないか?

大した知識を持たない人間の中にも創造的思考力を
ある場面で発揮する人間はいる。

知識・技能が優れていても、論理的思考力も創造的思考力も
ない人間もいる。

知識・技能のレベルが5で創造的思考力が0という人も
知識・技能のレベルが0で創造的思考力が5という人も
能力の面積はゼロになる。

私の学力イメージはそんな感じだ。

創造的思考力が優れているけど知識・技能の学びが足らない人は
知識・技能を鍛えることで、トータルな思考力がUPし
結果として、創造的思考力も価値が上がる。

知識・技能の訓練が十分な人は、創造的思考力を意識して
学ぶことでパワーアップする。

仮に、それを一人の人間で行うことに限界があるとしたらチームでやればいい。

私の短い人生の中で、「学力」とか「生きる力」というのを
考えると、どうしてもそちらの方がしっくりくるのですが
皆さんはいかがでしょうか?

そもそも、AIと人間をかなり近いモデルとして想定していることにも違和感がある。

人間に知識を与えた場合とAIに知識を与えた場合とでは、結果が異なるというのが私の直観だからだ。

もしかしたら、文科省を中心とした発信に対して私の理解が
不足しているのかもしれないが、こうした議論ではなく

「新しい教育改革に反対?古い教育にしがみつく旧タイプは駄目だ!」
「グローバル教育に反対?攘夷では駄目だ!」

「文科省は結局問題開発すら出来ないのでは?今まで通りで行きましょう」

といった、変化への感情的な対立しか見えてこないのが残念だ。

更に言おう。

高校3年生終了時までに、CEFR C1~2レベルを求め、
入試問題については、「創造的思考力」までを求める
大学関係者や企業関係者の皆さん。

あなた達は学生時代にそんなスーパーな人たちだったのですか?
あなた達はそうした優秀な人材をどう育てるおつもりなのですか?
あなた達はこれまでにどう人を育て、どのような優秀な人材を輩出してきたのですか?

一部の大学生の意見ではあるけれど、
一生懸命勉強して大学に入ったら、
入試問題より頭を使わない授業ばかりでガッカリだ

そう言う生徒も少なくありませんけど・・・。

少なくとも、

「これまでの自分に何が出来たのか?」
「今の自分に何が出来るのか?」
「これからの自分に何が出来なければいけないのか?」

文科省のお役人さんも、教育評論家や教育研究所の皆さんも
私たち教員も、若者たち自身も、そこから出発し、ゼロから自分の頭で考えてみませんか?

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

ESN英語教育総合研究会

ESN英語教育総合研究会は、次世代の英語教育ファシリテーター育成を支援するためのポータルサイトです。関東と関西を中心とした全国規模の研究会の実施や、教材や授業実践などの情報交換を通して全国の先生方のネットワークの構築を目的としています。英語教育に関わる各種研究情報や研究員のブログなどを配信いたします。

この記事と同じカテゴリーの記事

女子教育

女子教育研究会FEN オンライン学習会 No.16 女子STEAM教育の課題を考える

女子教育

女子教育研究会FEN 第15回オンライン学習会 なかったことになる『私の声』 ドキュメンタリー番組で使われることのない女性のストーリー

女子教育

第14回女子教育研究会FEN 「なぜ、ウェルビーイングを「幸せ」と訳すだけでは足りないのか?」 女子教育におけるWell-beingを考える 概要

  • ESN Facebook
  • STUDY

研究情報カテゴリの記事

女子教育研究会FEN オンライン学習会 No.16 女子…

女子教育研究会FEN 第15回オンライン学習会 なかった…

第14回女子教育研究会FEN 「なぜ、ウェルビーイングを…

女子教育研究会FENで労働政策研究・研修機構JILPTの…

女子教育研究会FEN 第13回オンライン学習会

女子教育研究会FEN 第12回オンラインイベント 「女性…

いつのまにか ”探究している”時間になる そんな実践型の…

女子教育研究会FEN オンラインイベント No.11 「…

『探究・PBLコーディネイター研修』(第2期)のご案内!…

女子教育研究会FEN 第10回オンラインイベント 「働く…