鮫島慶太鮫島慶太

平成29年度試行調査問題、国語記述問題について

前回、本ブログでも取り上げたサンプル問題と比較すると
今回の記述問題の課題文は高校生の日常から離れたものではなく
その点では改善されたと言える。
(前回は街の景観問題・駐車場契約などが題材)

クリックしてabm.phpにアクセス

ただ、問題を実際に解いてみると記述問題として思考力・表現力を
測定するに足るものとは到底思えないし、それ以前に問題として最低限
必要な質を確保しているとも言いがたい、というのが私の印象である。

以下、僭越ではあるが分析してみたい。

【問1】
当該年度に部を新設するために必要な、申請時の条件と手続き を50字以内で答えさせる問題

解法としては冒頭の「青原高等学校 生徒会部活動規約」が解答の材料となる。

この規約にある文言を可能な限り抜き出すと

同好会として3年以上活動し、当該年度の4月第2週までに、所定の様式に必要事項を記 入し、生徒会部活動委員会に提出すること。(60字)

となってしまう。制限字数を10字オーバーする訳である。

模範解答は
同好会として3年以上活動した上で、4月第2週までに所定の様式で生徒会部活動委員会に申請すること。(48字)

となっている。模範解答を分析すると、抜き出しからどのように字数を減らしているかが分かる。

1)活動し     → 活動した上で (+3字)
2)所定の様式に必要事項を記入し  → 所定の様式で (-8字)
3)当該年度の   → カット  (-5字)
4)提出       → 申請  (±0字)
5)読点    → 2箇所カット  (-2字)

東京大学英語の要約問題では、本文を抜き出してそのまま日本語にまとめると制限字数を遥かに超える。
よって、「言葉の圧縮力」が必要となり、そこに「表現力」を試す要素があるのだが、
上記の5点の言葉の「削除」に、個人的には何の「思考力」も感じられない。
特に5)の読点を省略するというのも、「それアリ?」と感じてしまう。

そもそも、「表現力」とうたいながら、解答者が行うのは基本、「抜き出し」に過ぎない。
これが「記述力」と言えるのか、大いに疑問である。

【問3】 空欄(イ)について、ここで森さんは何と述べたと考えられるか、次の(1)~(4)を
満たすように書け。

こちらの問題は、問題として成立していないように思えるが、どうだろうか?

簡単に問題までの流れをまとめると、「部活動の終了時間延長」についての提案をテーマに

生徒1 賛成。個人的にも作品展の前は時間が不足するから。
生徒2 賛成。いつもライバル校にあと一歩で勝てないから。
生徒3 賛成。個人的な思いだけでは提案出来ない。資料はないか?
生徒4 資料②を提示(市内5校の部活動終了時間のまとめ)
生徒5 資料③を提示(新聞部の昨年度の記事)
生徒3 では、資料②と資料③を基に提案を呼びかける。
生徒5 ちょっと待って下さい。提案の方向性はいいと思うのですが、課題もあると思います。(空所イ)
生徒3 なるほど、そう判断される可能性がありますね。では、どう提案するか皆で考えましょう。

問題の詳細はリンク先の問題で確認していただくとして、流れとしては

生徒1.2の個人的Opinion → 生徒3がFactが提案に必要と提案 → 生徒4・5から資料提供

ここまでは自然な流れ。その後、「生徒3が資料②③を基に提案を呼びかけましょう」とまとめるがここで予想されるのは、資料②③をFactとして使いながら、具体的な提案を練っていく流れだが、生徒5はなぜ、「ちょっと待って下さい」と言ったのかが謎である。

恐らく出題者は、「生徒が有利になるはずの資料③の中に、下校時安全確保が延長を認めない根拠だとする教員の意見があり、有利なことばかりではないから、それをどうするか検討しよう」という呼びかけとして発言を作成したのだと思うが、生徒3がFactが根拠であることの必要性を解き、具体的資料が2名から出された後なので、全員がFactを重視して議論するのが自然な流れである。

それを、資料を提供した自分自身が、その流れを断絶し、口を挟むのはどうなのだろう?

そもそも、資料③には突っ込みどころ満載である。

複数回答可とした、「青原高校に求めるもの」の%を全て足すと100%になる。
これ、本当にちゃんとしたアンケートなの?と疑いたくなる。
また、「部活動充実」を求めるとした52.5%(複数回答可なのでMax値)のうち
71.6%が「終了時間の延長」を求めているということは、全校生徒の中で「終了時間延長
を求めている生徒」の割合は37.53%となる。この数値は、「終了時間の延長を求めない
生徒(現状維持・時間短縮を求める生徒)」が相当存在することを必ずしも表してはいないが
過半数には遠く及ばない数値である以上、説得力に欠けるデータと見られる危険性がある。

そう考えて解答を作ろうとしても、出題者の課す条件から、出題者自身が資料の読み取り能力などには関心がないことを忖度して、不自然な流れの会話を資料②と③から作成するしかなくなる。

そもそも、3問ある記述問題のレベルは、恐らく優秀な生徒であれば小学生から中学生初期程度で対応可能だと思えるのだが・・・。

今回のブログでは扱わないが、第2問、第3問の正解とされる各選択肢にも突っ込みどころ満載である。
ただ、こちらは従来のセンター試験レベルよりは、題材は難しいと感じる受験生も多い可能性がある。

このレベルのちぐはぐさも含め、記述問題の開発にはまだまだ課題が多いと思わざるを得ない。

私の意見は従来どおりの試験に戻せということではない。

「受験生に失礼のないものが用意できてから出すべきだ」

と考える。

解答を公表出来ない無責任な対応を続けている各大学の入試問題にも是非メスを入れて欲しい。

そうした改善も行われないまま、見切り発車を行うなら、受験生の受ける被害は多大である!
それだけは絶対に避けてもらいたい!

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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