鮫島慶太鮫島慶太

GTEC の課題(私見)

GTEC for studentsを本校で導入して8年ほど経過した。
既存の模擬試験にはない画期的なコンセプトを持つ試験で
導入は正解だったと個人的には確信している。

模擬試験では、偏差値という「得点が持つ集団内の位置の価値」
という実体が分かりにくい数値で生徒に受け止められる。
「偏差値をあと5上げろ」といった無意味な指導も教科を
問わず行われているが、偏差値=学力ではないので
生徒の具体的な学力増進の指導には繋がらないケースが多いだろう。

その点、GTECは中学1,2年生からの英語力の伸長がスコアという
形で目に見えて分かる。

Writingでは70%前後を境に、得点のブレや誤差が大きくなり
3月の研究会でも指摘したとおり、高1時が最高得点者多数という
意味不明な結果が目立って出てきてしまうなどの問題があるが
Reading やListeningでは、学習の積み重ねがそのままスコア
に出るので、学習者も指導者も努力がどういう成果となって
いるのかについて十分な手応えを感じることが出来る。

しかし、である。
これを入試問題として使うには多くの課題がある。
3月の研究会では、

□ LT&CT要素が既存のセンター試験に比べても少ない

という点を挙げたが、今回のブログではそれ以外の問題点についても
簡単に指摘しておきたい。
私自身の不勉強や学力不足による誤解などがあれば
遠慮なくご指摘して頂ければ幸いである。

GTEC for students Listening

Part A 写真を見て内容に合う英文を選択(3択)×10問
Part B 問題も選択肢も放送のみで印刷されていないタイプの問題(3択)×10問
Part C 絵と会話を絡めた問題(4択)×10問
Part D 会話と講話(4択)×10問

新テストのサンプル問題で見られるようなLT/CT要素を試す問題も
TEAPのような資料のリテラシーを問う問題も見当たらない点を除けば
普通のListening問題であるが、大きな欠陥があるのはPart Bである。

かつて駿台予備校でリスニングの問題を模試に導入した際、
難易度が非常に高かったにも関わらず正答率がかなり高くなってしまった
という事例を駿台の研修会で耳にしたことがある。

このケースで問題となったのは、選択肢も放送してしまったことだ。
周囲の受験生の動きで解答が分かってしまうというのは試験として
致命的な欠陥である。

この点について、導入当初にGTEC実施側の営業担当者には直接指摘したことがあるが、
依然として改善されていない。

改善の必要がないと判断されたのか、改善すればそれだけコストが発生する
と判断されたのかは分からない。

センター試験においても、英文の整序問題などで選択肢が少なすぎるため
分かっていなくても正解出来るという問題が生じた年があったが
次年度にはすぐに改善されている。

民間試験というのは、営利を目的とした企業が行う試験なので
変えない・・・ということはないのだろうが、入試に民間試験を
導入する際には、ある程度行政や現場からの問題点指摘が
スムーズな改善に繋がるシステムが不可欠だと改めて感じる。

GTEC for students Reading

Part A 語彙問題:文脈から適切な語を選択する4択問題×14問
⇒ 名詞×4/副詞×3/接続詞×1/形容詞×2/動詞×4。
文法ではなく、あくまで「読む力に繋がる語彙力があるか」
を重視する点はTEAPと同じコンセプト。

Part B What is this passage mainly about? ×6
⇒ 問題としては一見、大雑把な情報処理を試す問題に見えるが
課題は誤りとなる他の選択肢(distracter)があまりに分かりやすすぎる。
LTもCTも必要ない点がセンター試験やTOEFLに比べて残念な点。
私は改善すべき課題だと感じている。

Part B チラシを用いた問題×8
⇒ 一見センター試験やTEAPと同じタイプに見えるが、GTECのチラシ問題は
チラシが文章で構成されている点が独特。というか、チラシなどの
情報処理問題ではなく、ただの古くからある読解問題になっている。
大量の情報をスキャンする能力ではなく、問題が聞いている箇所と
本文の英文を照らし合わせて照合するタイプの問題なので、AIでも解けそうな
単純な突き合わせ作業の問題。改善すべき課題だと感じている。

Part C 4~6パラグラフの読解問題×15
⇒ LT/CT要素を試す視点はほとんど見られない。単なるスキャニングと消去法
により解答出来てしまう問題ばかり。TOEFLで見られるようなSummaryやアウトライン
完成やセンター試験で見られる長文の空所補充問題などを入れるべきだと考える。

本来であれば、導入前に問題をしっかり分析し、指導要領にうたっている「新時代の学力」
を問う試験として妥当かどうかを様々な角度から検証すべきだったと思う。
3月の研究会では、私のような現場の一教員が出来るレベルではなくもっと多くの人材を動員して、「理想的な試験」の実現へ向けて大々的な検討が行われるべきだと
指摘したが、民間試験導入は既に決まってしまった。

今のままでは、この導入によって生徒の学力は向上するどころか
かなり下がるだろう、と思わざるを得ない。

現場の先生方も、試験を受けさせられる学生さんも、英語教育に関わる全ての
皆さんも、声を上げていきましょう。

どうせ駄目だと諦めずに、「このままではいけないのでは?」と感じるのなら
声を上げていきましょう。

誰かのせいにしても、何も生まれませんから。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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ESN英語教育総合研究会は、次世代の英語教育ファシリテーター育成を支援するためのポータルサイトです。関東と関西を中心とした全国規模の研究会の実施や、教材や授業実践などの情報交換を通して全国の先生方のネットワークの構築を目的としています。英語教育に関わる各種研究情報や研究員のブログなどを配信いたします。

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