鮫島慶太鮫島慶太

Ed tech / AI 活用の課題 (1)

デジタル・ナレッジ(https://www.digital-knowledge.co.jp/)さんの
ご厚意に甘え、試験的にAI教材を作成中である。

http://esnenglish.world.coocan.jp/aitoppage.html

従来の学校における英語教育では実現が難しかった音声面、特に「聞く」「発話する」学習の強化に大きな可能性を感じるとともに、私自身のスキルや発想の問題が大きいと思うが
課題も多く見えてきた。

やりながらなのでまとまりもないものになりそうだが、ブログで少しずつ発信して
いきたいと思う。

また2018.9.16の「未来の先生展2018」でもワークショップを実施するので
多くの先生方や学生さん、企業の方々と一緒に、従来型の授業の進化を考えて
いきたいと思っている。多くの方に是非ご参加頂ければ幸いです。

□ 未来の先生展2018ESN英語教育総合研究会チラシ

クリックして20180915miraisensei-1.pdfにアクセス

□ 未来の先生展2018前売り券販売サイト
https://eventregist.com/e/mirai_sensei
□ 未来の先生展2018ESN英語教育総合研究会申し込みサイト
http://es-network.org/?p=10852

さて、「今回はAI活用教材の作成や活用自体が目的化してはならない」
という観点で少し書いてみたいと思う。

「Ed techによって知識・技能の習得は個別最適化されるので授業はインタラゥティヴにアクティヴにPBL(問題解決学習)にその大半の時間を割くことが出来る」

こうした趣旨の発信は経産省の提言をはじめ多くの場で行われている。この発信自体は間違っていないと思うし、歓迎すべきことだと思うが2つの点で課題を抱えていると考える。

1つ目は、

「仮に授業が知識・技能の習得の場から解放されたとして、新しい授業を教員と生徒がどのように創り上げるのか?」

という課題。これについては従来型の授業しか行ってこなかった私を含む多くの教員が、意識を変えて学ばなければならないだろうし単なる理論に対しての知識ではなく、日々の授業の中で試行錯誤していくべきものだが、また別の機会に取り上げてみたい。

2つ目は、

「Ed tech によって知識・技能の取得は本当に、個別最適化されるのか?
(されるとすれば、どのようなケースで、どの程度なのか?)」

という課題である。

私自身はICT機器の活用やオンラインの活用に関しては比較的早期の段階から取り組んできた。

① 1998年HTML型教材
解説ページ⇒問題ページ⇒間違えると解説へ の繰り返し。
「理解⇒演習⇒確認⇒理解」を繰り返し「知識定着」を狙う。
現在のAI技術を駆使すれば、個別最適化まで可能だろうが
「紙の教材なら勉強しないがPCならやる」という生徒は
Windows95発売直後の時代よりは少ないように思えるので
学習習慣の定着を狙った工夫がより必要となるのでは?

② 1999年RPG型教材
全3作。文法復習をドラクエ的世界で行うゲーム(2作)。
海外旅行で必要な英語を音声付きで学ぶゲーム(1作)。
最後の「マンハッタンスパイラル」作成には1,000時間を
超える制作時間を要した。New Yorkでの1000枚を超える写真
撮影、シナリオ作成、ネイティヴの音声収集、BGM音源収集
など。労力に見合うかどうかは分からないが、夜中まで
やって心配という声や放課後のPC教室に行列が出来るなど
当初はインパクトがあったものの短期的な効果しか得られなかった。
仮に長期に渡っての教育効果をあげるものを開発するとすれば
「ワンピース」を超えるものでなければ、と感じる。

③ E-mail添削
2001~2002、2004~2005にかけて実施。
「和訳」「英作文」「長文読解記述」など、通常の紙ベース
の添削よりも、コピペなどが出来る分楽だろうと考えて
やってみたが、週末はまさに「地獄」。
利点としては「生徒の間違いや躓き」をデジタルで保存
出来るので、その後の指導にも役立てることが出来るが
教員の労力を考えると広く行うのは無理。
AIの活用は現段階では技術的にまだ難しいのではないか?
教育効果は生徒次第であるが、それなりにあったと思う。
(Evidenceを示せるようなものは何もないが)

④ オンライン視聴覚教材の活用
授業のWarming Up として活用しているものがほとんど。
熟語を説明した動画から難しい口語表現の意味を考えさせたり、
SDGsの視点から選んだTED ed などの動画を段階的に用いて
出来るだけ多くの英語、テーマに触れさせることを目的として
活用。

⑤ 授業動画 http://esnenglish.world.coocan.jp/englishmovie.html
2016年の熊本の震災をきっかけに、被災地の子どもたちに
教育を届けたいというESN代表の久保先生の志がきっかけで始めた。
実際に現地を訪れてみて、オンライン教材では足りないものが
多すぎることを痛感。以降、勤務校生徒向けに普段の授業では
ゆっくり解説出来ない事項(入試問題全体の解説など)を中心に
作成を継続中。

⑥ AI教材 http://esnenglish.world.coocan.jp/aitoppage.html
2018年夏から制作中。まだまだ試行錯誤の段階。

振り返ってみると、少なくとも私自身のICT機器の活用では「知識・技能」の習得が個別最適化され、従来型教材よりも効果を生んだとはとても言えない。
一時的に学年全体の学力試験の結果が例年よりも偏差値にして7程度上昇したこともあったが、それが継続して学びの質を変えるところまではとても行っていない。そもそも、偏差値の変化が何に起因するものなのかなど特定も出来ないし、それ自体に意味があるとも思えない。

さて、では何が足りなかったのか?

9月の未来の先生展でもこのあたりの話は触れようと思っているが

「家庭学習」⇒「授業」⇒「評価」⇒「発展学習」

という流れの中で、私が行ってきた取り組みは全て「単独」のものに過ぎなかったという点が大きな課題であった。

これは教材のクオリティーが向上し、AIがどんなに発達しても大きな課題であり続けるように思う。

現在、世の中で言われているICT、Ed tech、AI活用学習なども同じ視点から、Critical に検証すべきものが多くあるように感じる。

□「普段の授業よりも、名人の動画見る方が役に立つ」
⇒ 残念ながら、そう言えるケースも多々あるのかもしれないが「誰が見るのか」という視点が欠けている。 「自動車教習所の教官に習うより、VRと動画でF1ドライバーから学ぶ方がよい」と言ってるのとあまり変わらないように私には聞こえる。

□ 「紙の教材だと興味が沸かない学生でも、Ipadで映像を通して学べればドンドン学ぶ。

⇒ 教育現場に身を置く教員であれば、思わず失笑してしまう方が多いと思う。
確かに好奇心の刺激において大きな威力を発揮するケースもあると思われるし効果を考えず、どんどん活用すべきだと思うが、別の問題として「身体性」が疎外されていることから、「知識・技能」を「身につける」のではなく、「触る」に近くなるのではないか、といった危惧も個人的に持っている。
元堀川高校の校長先生の荒瀬先生のご講演でも、アメリカの学者の研究から教育効果を疑問視する声もあることを知った。

□ 「問題集に付箋を貼り付けたりしてやるよりも、自動的に個別最適化される学習の方が効果的だ」
⇒ 学習者が自分の課題を能動的に意識しながら学ぶやり方よりも、自分の課題や弱点を   AIという他者に発見して貰い、演習量を増やす方が効果的・・・。果たしてそうだろうか?
先日、元プロ野球選手の落合氏が、「自分で考えること」が何よりも必要だとTVで語っていた。もちろん、エビデンスのない精神論に基づくコーチングは論外だが、エビデンスに基づく   方法論を他者が与えることだけで人は成長するのか?エビデンスに基づく方法論の追求は絶対に必要だが、「学習者中心」と言いながら「知識・技能習得」の場で、「学習者の思考」を排除することが何を生むのかを考える必要がある。

新しい技術や理論を教育の実践の場に取り入れることに前向きなつもりである。
ただ、「自分の行ってきた失敗」を振り返ると、「技術・理論」の導入や活用自体が目的化してはならないと考えている。

ちょっと外れるが、「ゆとり教育」がなぜ「失敗」だったのか?
失敗かどうかにも議論の余地があるが、それは置いておいて「コンセプト」が学びの場のサイクル(家庭・教室・評価・発展)から切り離されたところで議論され、上から押しつけられ
上手くいかないと、「現場の教員の力量不足」となったこと自体が大きな「失敗」だったと思う。

教育とは、「植木」のようなものなのかもしれない。
本来、子どもたちが持っている「育つ力」を見極めそれぞれに対して必要なことを与えていく。

トマトなんかじゃ駄目なんだ、これからは高級イチゴの時代なんだから

と、相手も「見ずに、知らずに」化学肥料のような教育を施せば何が起こるか。

私たちは慎重に考え、教育を変えていかなければならないのではないだろうか?

うーん、全くまとまりもなく、だらだらと書いてしまいました。

「知識・技能」の習得について

□ 軽視すべきではない。
□ ICT機器の利用が学習者の主体的な試行錯誤を奪ってはならない。
□ ICT機器の利用が学習者の学びの「身体性」を疎外してはならない。
□ ICT機器の利用が学び全体のサイクルの中で機能しなければならない。

ってところで、十分に検証しながらどんどん活用していこう!という結論。

こんなまとめで今回は終わりにしたいと思います。

かなりまとまってませんが、最後まで読んで下さった方ありがとうございます。

次回以降は、AI教材の具体的な課題について少しずつ紹介して書いていく予定です。

文字通り殺人的な暑さですね。
半世紀生きてきてこんな夏は記憶にないです。
皆様、くれぐれもご自愛下さい。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

ESN英語教育総合研究会

ESN英語教育総合研究会は、次世代の英語教育ファシリテーター育成を支援するためのポータルサイトです。関東と関西を中心とした全国規模の研究会の実施や、教材や授業実践などの情報交換を通して全国の先生方のネットワークの構築を目的としています。英語教育に関わる各種研究情報や研究員のブログなどを配信いたします。

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