鮫島慶太鮫島慶太

2019 定員抑制影響予想と問題点

私大定員超え 罰則強化せず 混乱回避 3年後再検討 (東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2018091902000196.html

これまでも再三扱ってきた、「私立大の定員抑制策」について
ようやく文科省からの発信があった。

まず、来年2月の入試に大きな影響を与える施策の発表が9月中旬になって
ようやく行われることについて、大きな違和感と怒りを覚える。

私大の中には、「文科省の施策に関係なく、前年度と同じハードルにする」
と発信しているところもあるが、この発表の内容次第では、それを変更せざるを
得ない状況もあったかもしれないことを考えると、説明会もとっくにスタートしている
この時期の発表は現場を無視した選択だと言わざるを得ない。

また文科省の発信にある文章。あの日本語は、「論理的思考力、批判的思考力、記述力、表現力」
をうたう人間の書くべき文章でしょうか?
一読して分かりにくい文言。相手に誤解無く伝えたいという意志よりも
言質を取られない様に、様々な条件を潜ませ、更に「一面的な数値データ」
のみを用いて、自らの施策の正しさをアピールする自画自賛ぶり。
採用すべきデータは、30年スパンでの大学入学者の推移や各大学の入学者レベル
の推移ではないか?短期的な文脈での成果を自画自賛されても、この政策の是非は
見えない、私は思うのですが。

この点は後述するとして、まず

「来年1月下旬以降に一般受験する受験生にどういう影響があるのか?」

について私見を紹介したいと思います。

東京新聞の中で以下のような見通しが紹介されている。

◆受験生ひとまず朗報
<教育情報会社「大学通信」常務の安田賢治氏の話> 入学定員の厳格化が年々進み、
私立大は当初の合格者数を抑え、定員に満たない場合は繰り上げ合格で補うようになっている。
受験生にとっては入試の難化に加え、繰り上げの可能性が残るため入学先をなかなか確定させられず、
深刻な状況が生じていた。文部科学省が定員超過時の新たなペナルティーの導入を見送ることで、
私大側が合格者数を絞る動きに歯止めがかかると見込まれ、受験生には朗報と言える。
ただ、今春並みの定員規制が残る以上、影響は限定的だろう。

影響が限定的という結論については個人的な予想と一致するが、「朗報」とは言えない
可能性もあることを、少し別の観点から考察し今後の影響を予測してみたい。

今回のポイントは、

①「3年間は罰則を実施しない」
②「100-95%では助成金4%増、94-90%では助成金2%増」

の2点。

具体例から考えてみる。

1万人規模で補助金100億なら、4%補助金増額で4億増収。
仮に110%ギリギリまで入学させた大学なら、
このインセンティブの為に10%削減する必要がある。
一万人の10%、つまり1000人分の減収が必要になる。

ということは、学費を100万とすると、10億の減収。
差し引き6億円の減収となる。
つまり2018年の定員充足率104%が、インセンティブ狙いで
更に入学者を減らすかどうかの境目ということになる。

各大学も文科省に反発するふりをしつつ、こういう計算しながら、
入学者数を決めるでしょうね。
インセンティブ狙いが厳しいところは、
世間受けを狙い、「うちは取るよ!役所の言いなりにはならない」
と宣言しながらソロバンをはじきながら入学者数を決めるでしょうね。
この3年間の減収を回収しに掛かる大学もあるかもしれません。

ただし、「3年間は罰則を実施しない」という文言から
「調査してるからな」という圧を受けている為、
大幅に入学者を増やすとも思えない。

東京新聞の記事はこの点をきちんと予測しているのではないかと思います。

しかし、この3年間で各大学の入学者は1.1倍に揃っているわけではない。
そもそも、120%まで取ってよいと言われていた時代でも、大学の質を
重視していた大学の中には、100%に近い大学も存在します。

そうした大学は、インセンティヴ狙いに転じる可能性もある。
102%しか取っていなければ、2%の学生を減らし2億損しても
4億得られるので2億プラス。

前年度の定員充足率と補助金の額から、ある程度それぞれの大学の
来年の動向を予測することは出来るのではないか?
そして見通しとしては、110%周辺の充足率の大学であれば
昨年並み、100%周辺の充足率の大学であれば昨年より更に厳しい
というのが私のザックリした見通しです。
中には金儲けだけでガッツリ3年で回収に掛かる大学もありそうですね。
ただ、上位大学は流石にそれはやらないように思います。
3年後にまた苦労することになるだけでしょうから。

私のこの予測は正確な数値を根拠にしたものではなく
あくまでザックリ分かり易くお伝えする為のものなので
本格的な予測をしてみたい方は、是非各大学のデータを用いて
予測してみて下さい。
ただ、私は単なる現場の一英語教員、一担任に過ぎないので
そんなことはしません。

さて、この「定員抑制」は正しいのかどうか?

文科省は前述のように、都市部の学生数が減り地方の学生数が増えた
などの一面的なデータで施策の正しさを自画自賛しています。

 平成26年度三大都市圏 106.22%  その他の地域 95.87%
 平成30年度三大都市圏 103.18%  その他の地域 100.81%

あくまで地方活性化の政策として実施したこと、その効果がきちんと
上がっていることをアピールするための数字の提示の仕方ですね。

しかし、この極端な方向転換により、「地方活性化」の実現とやら
がどこまで進んだのか?
まず、学生数と地方の活性化の相関関係から
調査したのでしょうか?

前にも指摘したことがありますが、そもそもリーマンショック以来
地方の学生には上京する余裕などありません。
上京してくるのは就職時です。
地方の学生数が増えたからといって地方が活性化する訳ではない。

更に、この施策が「地方活性化」であったとしても
これまでのアンバランスのツケを、何故2016年~2018年の
3年間に受験する学生だけが背負わなければならないのか?
そもそも、このアンバランスは誰が生み出したものなのか?

各大学の経営が金儲けに偏らないように、大学の質の保証という社会的意義を実現するために
長期的な施策として定員抑制をしたのなら分かります。
が、散々大学の認可をしておいて、何の都合か分かりませんが(想像は容易に出来ますが)、
急に定員を抑制し、ハードルを変え、社会的混乱を招きながら、都合のよい数値で自らの施策を自画自賛する。

これが「表現力」「新しい時代に必要な学力」を標榜する人間達のやることですか?
私は6年担当した可愛い子達が、この施策に泣かされ、次の年度に担当した素晴らしい子達が苦しみ、
この春も多くの生徒達が理不尽に泣かされたことを、絶対に忘れません。こんな文科省なら要らないと思います。

ここからは、あくまで私のOpinionでEvidenceはありません。
が、文科省のこの政策の理由について邪推かもしれませんが
ご紹介しておきます。

なぜ文科省はこの政策を実行したのか?

 天下り先の確保のために大学を作りすぎたが緊縮財政で予算を回せなくなった

これがまず前提としてあります。
その中で

 ① 助成金の配分やインセンティヴをうたいながら、全体の交付金を下げる。
 ② 経営が上手くいっている大学にも、儲けを減らさせることでアメリカ型の運用&寄付のモデルに切り換えさせる。
 ③ 当面は経営難の天下り先の経営をサポート出来る。用が済んだら潰すのかな?

早稲田大学が未公開株に投資するニュースもありましたが、私は全て繋がっているように思います。

皆さんはどのようにお考えでしょうか?

というより、こんなことしてたら本当に若者に愛想つかされますよ、この国は。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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