鮫島慶太鮫島慶太

9月入学制度への移行について考える

「9月入学制度への移行」が話題になっています。

私自身、Change.org で「9月入学制度の検討」を求める発信をしました。

「子ども達の失われた時間」を回復したいという思いがありましたが、様々な問題について考えが足らなかったことは間違いありません。社会的な影響を与えるほど偉くないにせよ、教育の現場にいる人間として未熟だった部分を恥じています。

特に、学校がシェルターとして持っている役割、つまり給食による栄養補給、DVからの避難、居場所、人との繋がり等について、また現在の保障が不十分な「自粛政策」の中で子どもの居場所を失われながら苦しい生活を送っている人たちについて。そうした社会の全体についての思考が全く足りていなかったと思います。何も分かっていなかったと言われても返す言葉もありません。

では、どうするのがいいのか?非常事態宣言が延長される中、世の中全体が無傷では済まないのは当然で、この社会を守っていくために自分には何が出来るのか?

私には大きすぎるテーマですから、分からないことだらけですが、少なくとも、ここでは学校のことだけに限定して、年度の切り換えという観点から8パターンで考えてみました。あくまで「学校」の対応であり、これらの8パターンに社会がどう対応するのか?は別の問題としてあります。もちろん、「学校」を守ることが社会全体の最優先ということでもないと思います。社会が壊れてしまえば、教育どころではなくなります。ただ、社会の中の学校どころか、学校に限定した場合の話としてすら、具体的なビジョンも議論もなく「9月入学への移行賛成論 v.s. 9月入学反対・学校早急再開論」が進んでしまうように思えたので、自分なりに整理して考えてみました。今後の議論が具体的な見通しとともに進むことを願っています。

① 2020.6 再開 ⇒ 今年度の問題を今年度のみと限定し一気に4月スタートに回復

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 6/1~3/31       (10ヶ月) + Online

2021    4/1~3/31         (12ヶ月)

② 2020.7 再開 ⇒ 今年度の問題を今年度のみと限定し一気に4月スタートに回復

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 7/1~3/31       (9ヶ月)  + Online

2021    4/1~3/31         (12ヶ月)

③ 2020.9 再開 ⇒ 今年度の問題を今年度のみと限定し一気に4月スタートに回復

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 9/1~3/31       (7ヶ月)  + Online

2021    4/1~3/31         (12ヶ月)

以上挙げた①~③のパターンは、私が現場の教員として一番可能性が高いと不安を感じたパターンです。

6月に再開出来る見通しもまだまだ分からない中、①~③を前提とした大学や検定協会の動き、目の前ですら広がっていく格差に非常に不安を覚えました。もちろん、これは「私という人間の自己都合的な目線」です。「受験生」への影響を大きく考えすぎたバイアスもあったと思います。時間を奪われているのは何も受験生だけではないのですから。それでも日々時間が失われていくこと、オンラインと称した学びがなかなか届かない場もあること、どこに着地するのか分からない不安などから、①~③には大きな不安を持ちました。ただ、この状況であっても、本当に苦しい子達へのケアが届くように、私たち現場の教員はOnlineのみならず様々な支援を行っていかなければならないし、現にそうやって頑張っている方々が数多くいらっしゃることには敬意しかありません。私自身も微力ですが、更に努力をしていこうと思っています。

④ 2020.6 再開 ⇒ 複数学年に影響を分散し段階的に4月スタートに回復

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 6/1~4/31       (11ヶ月)

2021 5/1~3/31       (11ヶ月)

2022   4/1~3/31       (12ヶ月)

⑤ 2020.7 再開 ⇒ 複数学年に影響を分散し段階的に4月スタートに回復

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 7/1~5/31       (11ヶ月)

2021 6/1~4/31       (11ヶ月)

2022   5/1~3/31       (11ヶ月)

2023    4/1~3/31         (12ヶ月)

⑥ 2020.9 再開 ⇒ 複数学年に影響を分散し段階的に4月スタートに回復 

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 9/1~7/31       (11ヶ月)

2021 8/1~6/30       (11ヶ月)

2022   7/1~5/31       (11ヶ月)

2023    6/1~4/30         (11ヶ月)

2024    5/1~3/31         (11ヶ月)

2025    4/1~3/31         (12ヶ月)

④~⑥は今年の影響を複数年度の変化で分散させるプランです。9月に再開出来る見通しも立っていませんから、これらの想定もどこまで現実的に機能するのかは分かりません。ただ、都道府県、自治体によって再開時期もバラバラな状況に今後なっていくことを考えると、これはどちらかと言えば今回の感染の影響を大きく受けた大都市目線の対応なのかも知れません。そもそも、震災その他の想定外は最近の歴史でもあったわけで、東京が困れば全部を変えるのはフェアではない、という理屈もまったくもっともだと思います。

⑦ 2020.9 入学 ⇒ 複数学年に学生数を分散し9月入学制度に移行

※ 段階的に学齢を9/1~8/31に移行するプラン

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 9/1~8/31       (12ヶ月)        4/2~次4/1       (1学年)

2021    9/1~8/31         (12ヶ月)        4/2~次4/30    (1学年+1ヶ月)

2022    9/1~8/31         (12ヶ月)        5/1~次5/31    (1学年+1ヶ月)

2023    9/1~8/31         (12ヶ月)        6/1~次6/30    (1学年+1ヶ月)

2024    9/1~8/31         (12ヶ月)        7/1~次7/31    (1学年+1ヶ月)

2025    9/1~8/31         (12ヶ月)        8/1~次8/31    (1学年+1ヶ月)

2026    9/1~8/31         (12ヶ月)        9/1~次8/31    (1学年)

⑧ 2020.9 入学 ⇒ 学齢は現状のまま9月入学制度に移行

※ 学齢は4/2~次4/1のままのプラン

2019 4/1~3/31       (12ヶ月)

2020 9/1~8/31       (12ヶ月)        4/2~次4/1       (1学年)

2021    9/1~8/31         (12ヶ月)        4/2~次4/1       (1学年)

⑦よりは⑧のパターンでの9月入学制度が現実的だと思います。ただ、今行われている「9月入学」の議論でも、私の不勉強かもしれませんが、これらの対応についての検討もスッポリ抜けているように見えるのが気がかりです。もし、何も考えていないのであれば、それこそそんな「9月入学移行」にはリアルな政策としての妥当性など皆無ではないかとも思います。

私自身、色々考えてみたのですが、これらの8パターンも所詮は「元通り」を目指したプランである、というのが正直なところです。

公教育の存在意義は、「多様性」と「再配分」。特に後者については、「公教育をきちんと受けて学べば社会で生きていける」という社会保障の一つとしての信頼がなければならないと思います。

就学期間という観点のみで「回復」を考えても、今回の騒動の前から存在していた様々な社会の課題、教育の課題は解決しない。

研究会の姜先生のお言葉ですが、

「世界の中で日本の教育だけが今回の騒動で右往左往しているように見えるのは何故なのか?」

それをしっかりと考えて、これまでの制度の土台となっている価値観も含めて見直さなければならないと改めて強く思います。それは、教育が土台となっている社会全体を見直すことと繋がっていなければならない。私にはとても手に負える話ではありませんが、この国全体がそうしたコンセンサスを再構築することから始めなければならないと考えます。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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