鮫島慶太鮫島慶太

オンライン授業が問いかけるもの

大学では、

「オンライン授業が大半で学費は同じ。これは納得いかない」
という学生・保護者側の声

「オンライン授業準備で大学教員の仕事量はむしろ増えている。学費減額がないのは当然」
という大学側の主張

が対立しているように見える。

アメリカでの判例などを材料にどちらが正当なのか、といった議論も見かけるが
私自身は大きな違和感しかない。

中高でも生徒達はコロナ禍以来、従来の学校生活を十分に経験出来ていない。

学費を払って経験する学校生活が

授業+部活動+委員会+行事+交友関係

といった要素に分解され、それぞれが「通常」に比べてどの程度不足しているか?

という視点から考えられることが多い。
しかも大学では、それが「授業(講義・ゼミ)」といった要素にかなり偏って論じられる。

ただ、オンライン授業を受けている側も行っている側も、もう気づいているのではないだろうか?

そもそも、因数分解した部分の総和が学校生活ではない ということに。

同じ授業を受けて、時空を共有した経験を持つ人間と行事や部活動、委員会といった経験も
共有することに、学校生活の意味はある。

思春期の悩みと授業と一緒に食べるランチとサークルや体育会の活動の間に境界線はない。
それは自分の経験を振り返っても直観だが、強い確信を持って言える。

授業だけ行っても、部活動だけやっても、行事だけやっても
それはやはり何かが欠けた経験にしかならない。

それをオンラインで再構成しようとしても、なかなか上手くいかない。
オンラインで構築出来る世界はオンラインの創る世界でしかない。

もちろん、大きな魅力を持つ共同体をオンラインで創り上げることも可能かも知れないし
そういう実践を行っている場も既にあるだろう。
しかし、それは、「対面の経験の再現」ではなく、全く別のものとして創り上げられている
からこそ魅力を持つものなのではないか?

デンマークのフォルケホイスコーレ。
デジタルの真逆を行く共同生活を土台とした学校。

これはオンラインでは絶対に再現出来ない。

話はズレるが、社会人のリカレントやリスキリングについても
効率だけを考えればオンラインの活用はドンドン進めるべきだが
それだけでは不十分ではないか?
そうしたものとは別にフォルケのようなリカレントの場が今の日本には
絶対に必要な気がする。

社会で通用するスキルを学び直す、という目的に異論はないが
新しく構築される人間関係や人との出会いから得られる様々な刺激や学び
それらがあってこそのリカレントなのだと思う。

オンラインでしか実現出来ないものも絶対にあるはず。

ただ、年齢が低いほどそれは難しい気がする。

息子の幼稚園生活は毎日マスク着用で。
コロナ禍の子ども達は人の表情にどれだけ触れているのか?
それを考えるとゾッとする。

直観でしかなが、デジタルでそれを補完することは恐らく無理だろう。

話を元に戻す。
オンラインか対面か?の二項対立に欠けているもの。
それは、今の状況が考える機会をを与えてくれる様々な貴重な問いに向き合うことではないか?

それは学校とは何か?という根源的な問いに通じる。

対面授業とオンライン授業の学費が同じでよいか?といった特定の要素を巡る
議論には不毛な展開しか期待出来ない。

私たちは新しいステージに向かわなければならない。そう強く思う。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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