鮫島慶太鮫島慶太

第5回女子教育研究会FEN 共学校の女子教育から学ぶ ~共学中高から見た女子教育:SSHの取組を中心に~ 広島大学附属中・高等学校 橋本三嗣先生 (研究部長・SSH担当)

12/10(土)に女子教育研究会FENの第5回イベントを行いました。
今回は女子校ではなく、共学校の女子教育の事例から学ぶ機会となりました。

そもそも、この研究会を立ち上げる時に、「女子校研究会」という名称の予定だったのですが、コアメンバーの方々とお話をする中で、「女子校のポジショントーク」では駄目だという
話になりました。

「女子校を存続させるための女子教育」ではなく、「女子教育のUpdateを公教育として、市民社会に認めて貰うことでの存在意義を考えたい」というこのが女子教育研究会FENの出発点です。

そういう意味でも、授業・SSHの取り組み・探究活動・行事など、女子の活躍が目立つ広島大学附属中・高等学校のお話は私たちにとっては貴重なものとなりました。

ご登壇頂きました橋本三嗣先生、司会の西尾先生、ご参加頂きました皆様、ありがとうございました。

橋本先生がお話になった内容は以下の5点です。

➀学校の特色(生徒数,学校生活の様子)
②卒業後の進路(学部別:理系が6割弱)
③SSHの取組(ASコース,GSコース)→女子の活躍
④探究活動(科学系部活動,校外の活動)→高大連携・高大接続
休憩:学校行事(文化祭,体育祭),平和教育
⑤探究指導のための「広大メソッド」

司会をされた滝川第二中学高等学校の西尾先生(コア・メンバー)の学校と共通していたのは、どちらも共学校でありながら、学校活動のあらゆる場面で女子の存在感が大きいということでした。

女子校の良さという文脈でよく語られる「共学では女子が男子のサブ・サポート役になる傾向がある」というのは、今回お話頂いた橋本先生、西尾先生の学校では少なくとも当てはまらないということです。

ただ、理系への女子の進学者の増加を含め、女子の活躍が目立つようになってきたのは最近のことだそうで、この変化は「学校側の指導や工夫」によるものなのか、「学校以外の要因」によるものなのか、またその両方の相互作用によるものなのか、などはなかなか特定出来るものではないと思います。
とは言え、SSHを段階的に進める中で、女子の興味を引く探究の枠組みを考えたり、男女を問わず個々の生徒からのニーズに多様なリソースで応えようとする学校の姿勢が現在の状況を創り上げる大きな原動力の一つとなっていることは間違いないと感じました。この点は予め効果を期待した仕掛けが機能したかどうかは別として、現場の先生方の観察力や指導の熱意が背景にあることは間違いないと思います。学ぶべき点は女子校勤務の教員にも多くありますね。

出席者の中には地方の政治家の方もいらっしゃったのですが、「農村の崩壊とともに男尊女卑的な価値観や規範意識の存在理由・存在意義も薄れていく中で、地方でも変化が見られる」といったご指摘もありました。「元々男は弱い。その弱さをごまかすために様々な縛りを正当化してきた。が、その正当化の根拠となる農村の共同体が存続危機になり、従来の男尊女卑も存在意義をなくした。今後は加速度的に文化や価値観が変わる」ということだと理解しました。

長い歴史を持つ規範意識からどの程度人間が自由になれるのか、どの程度時間が掛かるのかといったことは簡単には答が出ないのかも知れません。ただ、社会の変化が学校に影響を与えていくことは間違いないでしょう。共学校における女性校長の誕生、中学副校長も女性といった広島大学附属中・高等学校の変化も生徒達の意識に大きな影響を与えているのではないでしょうか。

別の出席者からは「女子は男女平等の浸透と女子だからこその強みを上手く相乗効果として一種狡猾とも言えるやり方を含めて活用している」という指摘もありました。具体的にどのようなことなのか、は話が出ませんでしたので詳しくは分かりませんが、女子の方が「生きづらさ」を感じる場面を上手に和らげているのかも知れません。逆に男子は従来のように「場を用意して貰わないと動けない」「生きづらさを感じても積極的に共同体に働きかけることが苦手」という一面があるのかも知れません。

従来は男子が独占していた体育祭の応援団長のような役割にも女子が進出しているというお話もありました。逆に従来は女子のものとされていた「チアリーディング」「バトントワリング」などにも男子の参加があるという現実もあります。「男勝りな女子に対して男子が大人しい」といった見方そのものが、古いジェンダー観に囚われているものなのかも知れません。
仕切りたい人、仕切れる人なら男女を問わずやればよい。そういうのが苦手なら男女を問わず、無理にやらせるものでもない。
そうした価値観がもっと広がれば、リーダーの性別よりもそれぞれの中身がもっと話題になるのかも知れません。

また、「男性的な行事に女子が進出」というのは、必ずしもジェンダーの観点から望ましいこととも限らない、という指摘もありました。
実社会でも「男社会の文化にオス化して順応する女性」つまり「リーン・イン」が問題になることもあります。
行事そのものを現場で見たわけではないので何とも言えませんが、多様な参加者からの指摘は「予定調和」ではなく「更なる探究」を私たちに与えて頂ける貴重なもので、改めて人に恵まれている研究会だということを再確認しました。

変わりつつある共学校の女子の様子ですが、変わらない実社会の現実として「男社会」が話題になりました。
今回の参加者の中には新聞記者の方や弁護士の方、教育産業界の方もいらっしゃったのですが、法曹界・報道などまだまだ「マッチョな働き方」を前提にした「男社会の理屈」が優位である現実を知ることも出来ました。

ただ、そういう業界でも変化は確実に生まれているという話もあり、教え子達が出て行く社会の変化に期待が持てるという希望も感じました。それぞれの現場で、組織や社会を変えようと闘っている大人がいることこそが、社会を変える。
「子どもに先に変われ、ではなく大人が先に変わる!教育から社会を、ではなく大人が社会を変えるロールモデルであるべき。社会から教育を変える!」という司会の西尾先生の言葉も少しずつ現実のものとなっていくことを強く望みます。

予定の時間を大幅に超えて長丁場となりましたが、今回も非常に充実した内容となりました。

次回は2月の下旬を予定しています。
是非お越し下さい。

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