以前のブログでも試行問題段階で取り上げましたが、この問題コンセプトそのものにかなり問題があると思います。試験の設計としても、今回の共通テスト第一日程、第二日程では大きな課題が見られました。以下、順を追って説明したいと思います。
【問題点①】 共通テストの問題には fact / opinion の定義すらない。
そもそもFact / Opinion とは何なのでしょうか?https://www.bbc.co.uk/bitesize/topics/zs44jxs/articles/z3wgqhv
BBCの上記のサイトにはfact, opinion の定義が以下のように掲載されています。
Facts:
- Facts are definitely true.
- They can be backed up with evidence.
- For example, ‘the Prime Minister is giving a speech.’
Opinions:
- Your opinion is how you feel.
- Other people might think differently, they have a different opinion.
- For example, ‘having a teenager as Prime Minister is a terrible idea.’
実は後述しますが、BBCのサイトもこれらの定義については恐らく最近Updateを掛けていますが、PISAのテストにせよ、共通テストにせよ、上記レベルの定義の2分法を前提にしていると思われます。このこと自体が問題としての大きな課題であることは言うまでもありません。なぜなら、解答者は定義が明確でないものでの2分法を迫られることになるからです。
【問題点②】 共通テストの問題には本文を見る必要がない選択肢が多くなる。
何をもってfact, 何をもってopinionと識別するかが分からない状態で、受験生は、fact=事実(客観) opinion=意見(主観)というレベルの意識で解くでしょう。そして、これは出題者側の意識レベルも同じだということが問題から分かります。以下、第一日程、第二日程で出された計8題のfact, opinion の二分法の問題の選択肢を全て見ていきましょう。
選択肢だけを見た場合の解法はシンプルです。
① 感情の助動詞(should/need/must/ have to)などを含む選択肢はopinion
② 判断を含む形容詞(many / few / little / much など)や副詞( well / fortunately)などはopinion
第一日程
第2問A 問3・問4
【解答】 問3=1 問4=3
【解法】
問3 ②はneed to で、③はvery wellで、④はpromising でopinion確定。よって読まなくても解答は①
問4 ①はスコア=数値。本文とあってれば問題なくfact。合ってなければfalse。 ②も本文・資料から判断 ④も本文・資料から判断。 ③はreally connected with が主観的表現。そもそも①~③は事実確認出来るので③しか残らない。
第2問B 問2・問4
【解答】 問2=4 問4=2
【解法】
問2 ①はis needed より、②はimproveしたかかどうかは何をevidenceにしてるか不明なことより、③はshouldより opinion確定。よって資料から念のため確認し正解は④。
問4 ①はimportant / earlyより ③はhas to より ④はneed より全てopinion。よって読まなくても②しかない。
第二日程第2問A 問3・問4
【解答】 問3=3 問4=1
【解法】
問3 ③のa lot of より、④のa long time より opinionの可能性があるのは2つ。あとは本文確認。
問4 ②はconveninentより、③lightより(carry aroundの意味上の主語があれば別ですが)、④not too expensive より(これもbuyの意味上の主語次第では別ですが) opinion確定。よって解答は①しかない。
第2問B 問3・問4
【解答】 問3=3 問4=1
【解法】
問3 ①はgoodより、②はniceより、④はchallengingよりopinion。よって③しかない。
問4 ①はdifficultより、②はmostより opinionの可能性があり、③④は主観がないのでopinionにならない。よって①か②かを本文で確認。
解法により選択肢のみの確認で正解が確定する問題が6/8でしたね。
【問題点③】 共通テストで出題すべきかどうか、の前にこの2分法そのものに何の意味があるのか?
私の授業では、fact / opinionの二分法そのものが抱える問題点を以下のようにまず生徒に説明しています。
A)ディズニーランドの昨日の入場者数は多かった。
B)ディズニーランドの昨日の入場者数は3名だった。
生徒にfact or opinionを質問すると、A)=opinion B)= fact という回答がすぐに帰ってきます。「正解」と言った後、「でもさ、ディズニーランドに昨日3名しかいかなったって本当?」と聞くと、「あ!?」という顔をします。
definitely true かどうかは、分からない訳ですから、factとすることへの違和感と、fact=truthとは限らないという気づきが生まれます。
factかopinionかということを考えさせることに意味があるとしたら、それはCritical Thinking、つまり、書かれていることが正しいのかどうかを自分の頭で考えて、様々な資料を確認して真偽を見極める能力を養うこと、それしかありません。しかし、fact / opinionの2分法は、単なる情報の選別にしかなりません。先の学びが生まれない。
私の授業では、Auburn Universityの研究者の提唱する4分法を使っています。
fact = sourceがハッキリしているもの
false claim = 明らかな間違い
untested claim = sourceが明確でなく確認が必要なもの
opinion =sourceが不明確で、かつ話者・書き手の主観
4分法を使えば、A)=opinion B)= untested claim となります。B)は主催者発表なのか、それとも入場者が見渡した結果の言葉なのか、sourceが明らかではなく真偽が判断出来ません。よって、oipinionともfactともfalse claimとも判別が付かないことになり、untested claimとなります。
untested claimは特に報道では出来るだけ避けるべき、という前提が海外の先進国のメディアでは常識ですが、日本ではopinionの垂れ流しや「関係者筋によると」といった曖昧な表現が本当に目立ちますよね。Critical Thinking Skillをつけたいのなら、まずは大人から、です。
蛇足ですが、実は、 There were many people in Tokyo Disneyland. がopinion という判断も実は正しいとは言い切れません。なぜなら、sourceが提示されていれば、基本的にはfact になるからです。
これを言えば元も子もないですが、共通テストで出してはいけないと言う理由お分かりになりますよね?本文というsourceがある以上、opinionとは言い切れません。こうなると【解法】云々ではなく、選択肢は2分法で言えば、全てfactになりますし、fact=truthとは限らない訳ですからfact=falseでも構わないということになりますので、本文に記述があれば全てfactとなります。
だから、やめるべきだと試行問題の段階から発信したのですけど・・・。私の言うことなど、世の中を変える力はありませんね(笑)。