鮫島慶太鮫島慶太

2022/10/22 女子教育研究会FEN 第4回オンラインイベントの振り返り

渡辺友香[ワタナベユカ]先生にご登壇頂きました。

女子教育研究会FENのコアメンバーの伊藤久仁子先生を司会として会が進行しました。

今回も参加者の方々の熱量が高いと感じ、本研究会の活動を支えて頂けていることに感謝しかありません。個人的には渡辺先生が講演の中で触れておられた Negative Capacityの重要性に強く共感するとともに日頃の子ども達との関わりについて反省させられることも多かったです。

「Negative Capabilityとは?」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ネガティブ・ケイパビリティ(英語: Negative capability)は詩人ジョン・キーツが不確実なものや未解決のものを受容する能力を記述した言葉。日本語訳は定まっておらず、「消極的能力」「消極的受容力」「否定的能力」など数多くの訳語が存在する[1]。『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』[2]によると、悩める現代人に最も必要と考えるのは「共感する」ことであり、この共感が成熟する過程で伴走し、容易に答えの出ない事態に耐えうる能力がネガティブ・ケイパビリティ。キーツが発見し、第二次世界大戦に従軍した精神科医ビオンにより再発見されたとのこと。

 

改めて思うのは、教育とは本来「植物と人との関わり」に近いものであるはず、ということです。

明治維新とともにスタートした国家。その国家の富国強兵を支えるための国民教育の時代。この時代には植民地化されないための教育として、家庭から子どもを国の資源としてある型にはめることが必要だったのかも知れません。もちろん、学校という場の人と人との関わりがそれだけであるはずもないとは思いますが、社会が下部構造としての教育をそう規定していたことは構造的には間違いないのではないでしょうか?

敗戦後の民主主義教育は、戦後復興と人口増の中で「能力主義」に染まっていったように思います。「努力すれば社会的に成功することは誰にでも可能」という想いは「一億層中流」と言われた時代においてすら、実は事実とは異なっていたことも指摘されていますが、新自由主義的な社会の空気の中で目リトクラシーが教育の現場でも大きな影響を持っていたことは、自分がやってきたことも含めて事実であるように思います。その中で、本来必要であった市民社会を創るための教育、シチズンシップ教育が主流になることはなかったし、今でも現状そうなっていないのではないでしょうか?

代わりに主流になっているのは、「大学の研究に向かう準備としての探究」、「資本の課題解決に向かうPBL」なのかも知れません。

土壌がドンドンと病んでいく社会の中で、教育が、本来は植物のような存在である「人」をある形に意図的に変化させていく試みであるという誤った認識が、実は変わっていないのではないか?

会に参加して、そんなことを感じさせられました。

 

会の内容をまとめた私のメモをご紹介致します。

2022/10/22 女子教育研究会FEN 記録

心の発達の性差について

渡辺友香カウンセラー
 女子校のみならず、男子生徒の支援も担当。保育園から中高生まで幅広い支援の実践。

① 性差<個人差 類似点が多い
② 大人の性役割期待>今の子ども達の意識
③ 女子特有の発達課題

Ⅰ)社会状況の変化

1)昔と今:子どもの意識
 □ 長と名のつくものは基本男子 → 今は女子の応援団長が珍しくない
 □ 女子は短大が一番      → 親世代の期待は看護師・薬剤師という一昔前のモデルが多い
 □ 女子はスカートが基本    → スラックス導入校では

1985年 男女機会均等法

2)昔と今:職場
 □ 結婚・出産・子どもを理由に出来ない時代→セクハラ・マタハラが意識される今
 □ 夫婦別姓:通称なら頑張らなくても認められる場面が増えた

→ 30年で徐々に変化している日本社会。ただ大人の意識の変化はまだまだ

Ⅱ)中高生の友だち関係とその支援

1)チャムグループからスタート:同質・親密・少数 ~親からの自立の支えとなる集団~
 → SNSの発達とともに同調圧力の高い集団で仲良くてもストレスフル

2) 支援:「みんな仲良くとは言わない」→ 共存イメージを重視
 → チャムグループからピアグループへ

3)女子校・中高一貫校が選ばれる理由
 □ 男子が嫌
 □ 私立・女子校ならいじめはない
 □ 小学校の経験
 □ 私立の面倒見の良さ
 □ 高校受験で苦労したくない→現実勉強させられることへの不満も多い

→ 入学当時の支援が重要・成功体験がその後の人生で活きてくる

4) 小さなつまづきを成長に繋げる
 □ 自分が周りの話題が合わない→疎外感・自己肯定感低下
→ 台詞レベルで人間関係の構築を支援する

5)人付き合いが苦手でも友だちが欲しい:友だちが出来ないので何とかして欲しい
→ 経験値不足から悩む子ども達も少なくない
→ 挨拶・話題の選び方などの支援

6)人間関係創りの支援
 □ 構成的グループエンカウンター
 □ 生徒の課題に合わせた心理教育プログラム
 □ ランチタイムの支援は重要:コロナ禍の黙食で救われている子も
 □ 人間関係構築力が弱いとコミュニケーションや協働作業を伴う授業や行事で支障が出ることも

Ⅲ)心の安定・支援
1)安定した自己肯定感
 □ 幼児的万能感 → 人並み・ありのままの自分を許容出来る・自分なりの幸せ
 ※ 「人の中で育つ」経験が必要不可欠→学校という場の存在意義
2)自己肯定感の土台は大人との関わり
 □ 出来たことを褒めればOKではない!→他者との比較ではなく結果と無関係の受容が必要
3)ケアするとは?
 □ 相手を気遣い、心を込めて関わる:次世代育成・共存に欠かせない行為
→ キュア(治療)とは違う
4)子どもが育つプログラム
 □ Take&Takeの関係からスタート→Give&Takeの関係→Give&Giveの関係(年長者・養育者としての向き合い方)
→ Give&Giveが出来ない大人との関わり
5)自己肯定感以前の問題

気になる子①:体を大切に出来ない(リストカット・摂食障害・過量服薬から食事抜き・睡眠不足・サプリ依存)
気になる子②:生真面目だからこそ極端な行動:完璧主義・白黒思考→経験から逃避傾向が強い
気になる子③:素直でいい子だけど悩めない子:内省のための表現力が弱い・根拠のないポジティヴ・他責傾向が強い
※ 表面的な言語活動量ではなく、内容を注視する必要がある
※ 悩めない子の背後には悩む子どもを許容出来ない大人の存在があるのでは?
気になる子④:最後につぶれる子:努力家・大人の指示通り・期待への意識が強い・自責の念から自己肯定感が低下
→ 持続不可能なことではなく、持続可能なことを頑張るように支援することが必要

6) 進路選択についての思い込みから来る悩み
□ 理系上位
□ 国公立大志望が絶対
□ 早く明確に立派な目標を決めなければ駄目という思い込み
→ 華やかなロールモデルによって「地味で普通の人生」を肯定出来ない
→ 自分の特徴を活かした人生を送れるように支援する必要がある

7)ケア体験・他者への貢献の意義 → 自分のことで頭がいっぱいな時にこそ役立つ
□ 自分のことだけ考えていては幸せになれない
□ 他者をケアすることで自分の心が満たされる

Ⅳ)実際に中高生に伝えていること
1)全ては健康な体が支え:健康な体→非認知能力→認知能力・人間ならではの活動
□ 家に例えると、「健康な体」=土台 非認知能力=外装 認知能力=内装
2) 自己肯定感とは?
□ 自分大好き・自信満々=不十分な自己肯定感(≠自信過剰)
3)劣等感・悩みはあってよい=成長の証 → 付き合い方が成長に重要
□ 陰キャなどのレッテルの修正
4)ありのままの自分にOK
5)援助希求能力(受援力)→ 精神的な自立を目指して
□ かっこつけはやめお互い様を大切に!という支援

Ⅴ)思春期の親子関係とチーム学校
1)親から見える思春期の姿は → 扱いづらい男子より扱いづらい女子の方が干渉を受けやすい
2)友だち親子は危険 → 最終的に親が子の支えになれない:精神的な自立が困難・親子共揺れ現象・「よい子」を演じる子どもに
3)「よい子発言」いろいろ
□ 当たり障りのない会話しかしない
□ 夫婦関係への配慮
□ お母さんがすぐ泣くので笑顔で過ごす
4)私立の保護者の難しさ:中学受験期の家族関係を引きずる→親の管理が不十分・塾任せから本人任せに・地域との分断
5)臨機応変・対話の力 → 子どもだけでなく保護者の課題としても目立つようになった
□ 保護者の考え<子どもの気持ちや成長
□ 保護者の対応は子どものモデルになってしまう
6)子どもは機械ではない
□ 将来の見通しを安易に求める大人
→ 子どもは思い通りにならない存在で大人が頑張ってもそれに応えないこともある
7)ネガティヴ・ケイパビリティ
□ 不確実・不思議・よく分からない状況で結論を急がず分かったつもりにならず、どうにも出来ない答の出ない事態に耐える力
→ 大人にも励まし合い、慰め合い、支え合う仲間が必要
ネガティブ・ケイパビリティ(英語: Negative capability)は詩人ジョン・キーツが不確実なものや未解決のものを受容する能力
を記述した言葉。日本語訳は定まっておらず、「消極的能力」「消極的受容力」「否定的能力」など数多くの訳語が存在する[1]。
(https://onl.sc/kRBcC3U)
8)授業や連絡のIT化が浸透する中で
□ 教員の疲弊・学校や先生への過度の依存
→ 便利すぎて発達のマイナス要因になることも
9)学校相談体制のポイント:保護者もチーム学校の一員
□ 学校の組織としてのUpdateが必要
10)相手によって違う顔を見せる
□ 連携しないと子どもの全体像を理解出来ない!守れない!
11)子ども達に伝えたいこと
□ おばさって、楽しいよ!→ 大人の楽しい姿を見せることが重要

 

<渡辺友香先生のプロフィール>

KIDSカウンセリング・システム(カウンセラー、リサーチャー)。スクールカウンセラー。お茶の水女子大学を卒業後、東京大学大学院を修了(保健学博士)。臨床心理士。公立・私立学校のスクールカウンセラーとして15年以上勤務し、学校や子どもたちのニーズに合わせた心理教育に力を入れている。学校現場だけではなく、解決志向ブリーフセラピーを活かし、母子保健分野での育児・発達相談や保護者向け講演会、保育園での発達支援に関するコンサルテーションなども行う。

ご著書:解決志向のクラスづくり完全マニュアル―チーム学校、みんなで目指す最高のクラス!

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784866141046?fbclid=IwAR0MjuPYb3L5enPM5vdyXAAGKPbDaSwpM6AKVIazQeC5ce9O8b8_RZvzcSA

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