鮫島慶太鮫島慶太

学校選択指標に思う

東大合格者数のランキング上位を公立学校が独占していた時代の学校選択指標は非常に分かりやすかった。
アクセスと中学校での成績で選択肢が限られていた為、公立学校の序列がそのまま学校選択指標であった。

選ぶ側に自由がない訳ではないが、与えられた諸条件でほぼ決まってしまうので、「選択」の余地はあまりない。

そうした状況が一変するのが、公立高校凋落の頃。
公立学校が荒れたこともあり、都市部を中心に私立台頭の時代が来る。
特に大学受験が激化した1980年代後半あたりから中高一貫校の人気が高まった。
要するに公教育への批判票として私立が伸びた。

この時期の学校選択は

① アクセス:通学可能圏内
② 大学進学実績
③ 中学入口偏差値
④ 口コミ評判(特に近親者)

の4つ。

『公立は水道の水。私立は井戸の水』といった表現で私立人気の秘密をまことしやかに語る私立学校関係者もいたが、選択指標が大して変わらなかったことから見ても、『荒れた公立』『放任の公立』への批判票が私立に流れたに過ぎない。

いずれにしても、選択指標の②や③は分かりやすいし、
④もEvidenceを伴うFactというよりは幾つかのOpinionによる判断だったように思う。

しかし、2000年前後から私学の理念の再生や改革というKey Wordとともに学校側のPRの形が変わってきた。

もちろん、少子化による生徒の奪い合いが背景にあるが、それだけではないように思う。

特に2000年前後によく言われるようになったのがSI(School Identity)である。

「どういう生徒を育てたいのか?」
「学校全体に浸透している理念や教育成果は何か?」

進学実績や入口偏差値を判断材料としながらもそこに大差がなければ、何によって学校を選ぶのか?
それに対する答えとして、「育てたい生徒像」「教育理念」などを骨子にしたSchool Identityが強調されるようになる。

SIは少子化を背景に自然発生的に生まれてきた、と思われる方も多いかもしれないが、私の見方はちょっと違う。

2000年前後から、学校の広報の大きな役割を持つものとしてホームページが積極的に活用されるようなった。
この影響はすさまじく大きいと私は思う。

つまり、「ホームページで表現された時に魅力的に見える学校」であるために必要なのが、
School Identityだったということだ。

暴論に聞こえるかもしれないが、テクノロジーが社会を変化させる例はホームページだけではない。
TVの登場により、アメリカ大統領選の本質が変わりケネディー大統領誕生の大きな力になったことはよく知られている。

ホームページという媒体で学校を見て貰うようになり「断片的な情報の集積」としての学校像ではカッコがつかないから「理念」やSIが「断片」をまとめるものとして必要になった、と私は見ている。

もちろん、そうではない学校があることも否定しない。

学校という組織は今でも「一国一城の主」的なそれぞれの聖域で勝手に仕事をする教員が少なくない。

保護者は学校に預けているのであって、ある特定の教員に預けている訳ではないのだが
教員の側は傲慢にも、そう考えず自分の聖域で個人的価値観を基に教育をしている。
そんな教員ばかりではないが、そういう教員も多いということである。

それは私を含む現場の教員の思い上がりにも原因があるが、組織としての学校が経験と理念を共有し、SIを構築するのは非常に難しいことにも理由がある。特に宗教系の学校でなければ至難の業だ。

本来なら、リーダーを中心に、各々の教員の日々の教育経験や価値観を共有、議論し、
その結果出来上がるべきSIが「ホームページ、すなわち魅力的なPRに必要な要素」だから
前面に出て行く…。

こうした本末転倒な状況が多くの学校の実情ではないかと思うがどうだろう?

さて、それはともかく、SIが明確になり、学校選択指標の中に入ってきたことにより
学校を選ぶ保護者の側は

「ここに入れたら何をしてくれるのだ?」
「ここに入れたらどう育ててくれるのだ?」

といった問いを持つことになる。

こうした学校選択指標の変化は、日本の教育における進化なのだろうか?

最近では

①アクティヴラーニングをやっているのか?
②グローバル対応はどの程度進んでいるのか?
③語学教育は充実しているか?
④キャリア教育は?

といった選択指標が大学の説明会ですら語られる。

説明だけ聞いているとどの大学なのか分からいくらい、どこも②③④を中心に
パワポで説明をする。

学校が時代に合わせて変化しなければならないこと
教員が時代に合わせて学び変化しなければならないこと

これは正しい。

しかし、宣伝時に表面に出てきている「学校の変化」ほど
学校も教員も実は変わっていないように思える。

そんな中で選択指標が一人歩きし、新しい時代に必要だとされる
キーワードだけが連呼される空気の中に私は進化を感じることは出来ない。

「6年間でわが子がどうなるかなんて、入れる時に見える訳がない」

と考え、成長出来るコミュニティーなのかどうかを学校を実際に見学して
見極めるしかないのではないか。

合わなければ他の選択肢を探せばいい。

そもそも人材は育てられるのではなく、育つものだ。

もちろん、関わる教員も保護者も「良い」と思うことを
全力でやるべき。

組織としての学校に、それなりのコンセンサスがあって教育していることも必要。

新しい取り組みも当然必要。
(成果も見えないのに安易に飛びつく風潮はまずいが)

だが、人に教わって身につくことなどスタート段階のものに過ぎない。

いろんな失敗をして、挫折も味わって、いろんな刺激を受けて
若い子達には伸び伸びと成長していって貰いたい。

ぬるま湯につかっていたり、楽をしていたら「喝」は入れますけどね。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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