女子教育研究会FEN 第22回オンライン学習会は、建設業界(ゼネコン)で働く女性技術者・大島美保さんをゲストにお迎えし、「建設業界における女性の活躍とジェンダーギャップ」をテーマに学習会を実施しました。
冒頭、代表の前田先生から「土曜の夜に学びを共有できることの価値」「教育関係者だけでなく多分野の参加者がいる場としての意義」が語られ、続いて大島様よりご自身の経験を軸にお話し頂きました。
大島さんの自己紹介
大島さんは大手ゼネコン(安藤ハザマ)で、技術研究所・先端技術開発部に所属する建築系の技術者です。キャリアは、構造設計(建物の骨組み計算)を長く担当し、途中2015年から人事部へ、2020年に技術系へ戻ったという異色の経歴。資格は一級建築士・施工管理技士など。中高は女子校出身で、自身の「理系進路が自然に選べた背景」も語って頂きました。
「ゼネコン」という仕事の説明(参加者の前提合わせ)
まず大島さんは、建設業界の構造を丁寧に解説下さいました。ゼネコンは、発注者から工事を元請けとして受け、協力会社(職人・専門工事会社)を取りまとめ、工程管理・品質管理を行う存在であること、建設は大きく土木(道路・鉄道・ダム等)と建築(建物)に分かれ、大島さんは建築側であること、ゼネコン内部にも営業・設計・積算・施工管理・メンテナンス等、多様な職種があることなどです。
女子教育研究会FENでは教育現場のメンバーが多いので、建築業界については大雑把なイメージしか持てていないことがほとんどですが、参加者が「建設業界での女性の働きにくさ」がどこで生じるのかをイメージしやすくなりました。
①女性が理系に進めた要因は「能力」より「周囲の後押し」
大島さんが印象的に語ったのは、理系進路は“強い意志だけで決まった”のではなく、周囲の言葉が積み重なって自然に形成された、という点です。小学生の頃から「丈夫な家を作る仕事がしたい」という志向があり、作文にも書いていたそうです。塾の先生が「理系っぽい」と言ったことが、お母様の意識を動かした、女子校で理科・数学の女性教員が多かったことが「女子=文系」という固定観念を弱めた、担任や予備校教員が保護者面談で「理系で行ける」と繰り返し評価したことが、進路選択の抵抗を小さくしたといったお話を伺いました。「本人の適性」だけでなく、教員・大人の言葉が親の規範意識や認識を変え、それが本人の選択を支える――という構造が浮き彫りになりました。周囲の大人が古い規範意識に縛られて女子の進路の阻害要因になることもまだまだ少なくはないと思いますが、大島さんの周囲の環境は進路選択において理想的だったと感じました。
②大学以降に直面した「圧倒的男性環境」と居心地の悪さ
しかし、大学(理工系)に入ると一気に男子比率が上がり、女子が少ない環境の衝撃が語られました。学科によっては女子が極端に少ない(機械は学年2人など)こと、女子が少ないため人間関係の選択肢が狭く、周囲から「女子なのに女子と一緒にいないの?」と見られる圧力、周辺女子大のサークルが盛んだが、摩擦の歴史から「この大学の女子は入れない」サークルがあり、男子学生とつながる回路が細いといったお話がありました。研究室でも「女の子が力仕事をするのは…」という「善意っぽい性別役割」の言葉に違和感を覚えたそうです。こうしたエピソードが、女子が少ない理工系では「空気」「慣習」であり、日常の不自由を作る実感として提示されました。
③就活で初めて露骨に突きつけられるジェンダーギャップ
更に就職活動では差別がはっきり言語化される経験が語られました。成績を見た大学教員が「十分いける」と言ったレベルであったにも関わらわず、会社側は女性と分かった瞬間「女子だと厳しい」と反応が変わった、資料請求の段階で「女子は取らない」と電話で言われた、そもそも応募できる枠が少ない(現場監督も設計も女性は取らない、という時代感)といった当時の差別的な就職の現場のお話がありました。
現在は状況が逆転し、「建設業は女子学生を採用したがっている」「ただし女性比率は依然低く、会社によって10〜20%程度」という「改善と構造的変化の不足」の両面をお示しいただきました。
④入社後の「制度・文化の遅れ」が身体感覚として現れる
入社後の衝撃として語られたのは、象徴的に「現場のトイレ」「制服」「呼称」「当番」など、生活・身体に直結する部分。これは、私自身が鉄道業界で働く卒業生の職場見学に生徒を引率した時にも感じました。もちろん、現場の男性職員を含めて、変化を受け入れ自分たちも変わろうとしているのだと思います。しかし、これまで女性がいなかった職場を変えるということはそう簡単なことではないと思います。女性の目から見て声を上げて貰わないと何が問題なのか、ということすら恐らく認知されないでしょう。女性技術者が少なく、女性=掃除担当と誤認されることがある、「女性なのにすごいね」と言われる(褒め言葉の形をした線引きと女性は感じてしまう)、当時は女性だけ事務服(スカート等)の制服があり、技術職でもそれを着るよう言われた、建設現場の仮設トイレに女子トイレがない/男性用小便器が丸見えで扉がない等、「女性が来る前提がない空間」は女性が存在し、声をあげていくことでしか変わらない。支店転勤では、女性総合職が初だったため住居が「女子寮(門限あり)」として提示されるなど、制度設計が追いついていない、呼び名が「みほちゃん」になったことも周囲は悪意ではなく本当にどう呼んでいいのか分からなかったのでしょう。本人が明確に「やめてほしい」と伝えてようやく変わる…。
ここで強いメッセージとして出てくるのは、「女性だから特別扱いしてほしい」のではなく、「性別を意識せず普通に働ける状態がまだ普通じゃなかった」ということ。それは建設業界に限らず、女性比率が低い職場や女性に限らずマイノリティが存在する職場では日常的に見られる話だと感じました。
⑤ネットワークが「当たり前」を言語化し、変化を生んだ
転機として語られたのが「ゼネコン女子会」です。大島様より7歳下の女性が中心になって始まったそうですが、最大120人規模で、「現場見学+交流の場」として活動していたそうです。そこで初めて「トイレがないのはおかしい」「女性だけお茶出しはおかしい」と「言っていい」と大島さん自身が感じたとのことです。自分が慣れや我慢で蓋をしていた感情を言語化でき、若い世代のために変える必要性を自覚したことで、大島様の活動も建設業界の職場の変化も拡大し加速していきます。この流れの延長で、大島さんは業界団体(日建連)による「建設小町」活動にも関わっていくことになりました。
「建設小町」活動のポイント(業界として何をしているか)
大島さんは、建設小町の活動を「女性活躍の旗」だけでなく、現実の出発点(人手不足)も含めて説明して下さいました。
職場が変わらざるをえなかった発端は、技能者(職人)の高齢化・人手不足への対応として女性を増やすことの必要性が認知されたとのことです。この点は、第二次世界大戦中に男の兵士がドンドン戦死して女子も戦えという空気に変わった歴史と私の中では重なってしまいました。しかし、現在は「定着・活躍・育成」など、より広いダイバーシティの枠への広がりを見せているお話をお伺いし、「建築の道に進みたい」という生徒達を希望を持って応援・支援できるように感じました。
変化を生むための様々な取り組みは「地道で具体的」と感じました。
・現場環境整備マニュアル、チェックリスト
・トイレ・更衣室・鍵・目隠し等の改善(「女性トイレは未使用時は外から鍵をかける」など、現場のリアルな課題が共有された)
・ハラスメント防止ポスター(職人は協力会社で教育が届きにくい現実を踏まえる)
・両立支援制度の横並び比較(他社事例を示して社内を動かす材料に)
・SNS/YouTube/Instagramで女性技能者の可視化
・オンライン現場見学会など、入口の広げ方
・2026年3月6日に「建設小町フォーラム」予定(オンラインなら誰でも参加可能、募集開始時期にも触れた)
などの活動を写真などをご紹介頂きながらお話下さいました。
学習会後半:教育側の“世間知らず”への反省
大島様のご発表の後、私から感想と質問をさせて頂きました。
別の業界(鉄道)の職場見学でも「女性がいない前提で作られた空間」が残っていた体験に触れつつ、教育現場にいると「機会均等法以降、女子のキャリアは自由」という感覚に寄りがちだったりする。もちろん、古い考えや規範意識に縛られている教員も昔はいたが、最近では「子どもの志望は否定しない」という空気が教育現場では主流になっている。そのこと自体は良いのだけれど、学校の中で理想や綺麗ごとを語る教員は実は社会に出た後の様々なキャリアのことをほとんど知らないのが普通だし、送り出した生徒達が入っていく実際の職場は教員の想像を超える過酷な現場なのかも知れない。設備・文化・慣習の面で「まだ改善途上」という話を聞くと、私たちが理想を語ることで学校をお花畑にしてしまうことのリスクをどうしても考えざるを得ない。教育から社会は変わらない。社会を変えなければ教育も変わることはできない。まとまりがない話ですが、私からはそういう感想を共有させて頂きました。
しかし、マイノリティとして働いてきた当事者である大島様の経験を聞くことで、私たちも認識を更新する必要性を再確認するとともに、ハラスメント対応などにおいては Active Bystanderによって解決に向かう取り組みなどは、多くの学校組織よりもはるかに進んでいることも知り、今後は女性比率が上がっていくことで改善の質もスピードも向上していくと感じました。こういった点においては、学校という組織は本当に変われない。企業では経営陣と新人が徹底的に変化の必要性を研修などを通して学びますが、学校という組織では実は管理職の意識がUpdateされないし、学ばない管理職が圧倒的に多い(個人の感想です)。また、リーダーが変化を恐れ、自分の居心地や安心感をこれまでの文化やシステムに依存して保守する。このあたりについては一般企業の方が、もちろん全ての企業ということではないでしょうが少なくとも危機感を正しく認識できる組織なら、圧倒的に進んでいることも書感じました。
今回の学習会は「外の世界の実装の現実」を教育側が学ぶ場になり、大変貴重な機会となりました。
また、今回の学習会では、本研究会の伊藤先生もご参加になった富良野で活動されている小嶋美代子さん(本研究会でもご登壇頂きました)のイベントにご参加されていた方々が多数ご参加下さいました。
今後の研究会で是非ご登壇頂きたいと考えております。
大島様、貴重な機会を頂きありがとうございました。


