鮫島慶太鮫島慶太

日本の生徒は「儀礼的」に教師に従っているだけ か?

2016.6.7 Newsweek 日本語版で教育社会学者の舞田敏彦氏が
興味深い記事を書いている。

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/post-5268.php

15歳の生徒に普段の様子を尋ねた統計だが、具体的内容は

「生徒は教師の言うことを聞いていない」
「生徒は騒ぎ、授業の妨害をする」

に対して「いつも(大抵)そうだ」という回答の比率をグラフにしたもの。

日本は世界で最も授業内での「秩序」が保たれている社会だと分析している。

一方で、舞田氏は「私は、大抵の先生とうまくやっている」という指標では
日本は最下位になるという結果を紹介し、日本の学生を「儀礼型適応」
と分析している。

まず、この分析が正しいものなのかどうか?

Critical Thinking を用いれば

① 「生徒は教師の言うことを聞いていない」
② 「生徒は騒ぎ、授業の妨害をする」
③ 「私は大抵の先生とうまくやっている」

の3つの質問内容ともに、正確にFactを導き出せるかどうか怪しい。

①~③ともに、「客観的な物差し」が存在する訳ではない。

意識の高い生徒が集まり、レベルの高い講義をする教師がいたとする。

その中で「寝て雰囲気を壊す生徒」がいれば、周りの意識の高い学生は
①の回答の結果はかなり悪くなるだろうし、生徒集団の意識レベルが
低ければ回答の結果はかなり悪い状況でも悪くはならない。

②についても、廊下をバイクに乗って窓ガラス割りながら走る生徒が
いるレベルから、ちょっとした私語まで程度は不明な質問。

③についても、求めるものが大きければ親密な関係にあっても
不満が出てくるし、求めるものや期待が小さければ「別に自分の
人生の邪魔にならない。先生との関係ってそんなものでしょ?」
ということなら悪くならない。

多くの世論調査と同じで、「誰にどのような聞き方をしたのか?」に
よって結果は大きく異なるし、どういうタイミングで聞かれたかによっても
結果に誤差は生じるだろう。

問題なのは、そうした「あやふや」なデータを「数字」にして
あたかも客観的データとして処理をする報道や発信が世の中
にあふれているということだろう。

PISAのテストのスコアについても、英語力の指標としてのTOEFLの
平均点にしても、それが「国益・国力」や「個人の自己実現」に
どう相関しているのかを検証せずに、数字が一人歩きしてしまう。
以前このブログで取り上げた、「大学国際ランキング」も同じだ。
さて、データの信憑性や意義について大きな疑問はあるものの

「今後の日本の教育は集団秩序維持・管理中心でよいか?」

というのは考察に値するテーマだと思われる。

氏は

①「儀礼的に教師に従う日本の適応様式は、内面の同調を伴わない
儀礼的なものであり、単純に誇れるものではない。」

②「ブラック企業がはびこる土壌になっている」

③ 「学校がすべて」という現状からの変化が必要

などとしているが、①については共立女子第二中高のI先生が私のFacebookで鋭くご指摘してくださったように、「内面の同調」まで生徒に求めること自体の不健全さを私も感じる。

今回の記事によって紹介されているデータは、私個人としては

1)学校の秩序維持は大いに結構
2)内面の同調など不要。されたら気持ち悪い。自立しろ!
3)ただ、「闘うべき時は闘え!」相手が私でも校長でも!

としか思わない(笑)。

大人との「ズレ」や「違い」に向き合いながら子どもは大人になるもの。
「内面の同調」を求めるのは「一体化」を求める親と同じで危険だと
私も思う。第一サンドバックやスパーリングの相手も出来ない大人では
申し訳ない。能力以前に大人としての覚悟もないのか?

③については、確かに「学校がすべて」ではおかしいが問題が違うと
考える。今回のデータを基に、それも1961年の海外の研究者の論を
用いて「学校絶対信仰」の根にあるものだと断ずるのは乱暴。

ただ、②は、私も同感。

本校は、全国的に見れば驚くほど「秩序」が保たれている学校だと
言えると思う。具体的に多くの学校と比較したわけではないが
他校の授業見学などをするといつも本校の生徒の「授業参加姿勢の
行儀の良さ」を感じることが多い。

しかし、卒業生の中には、「ブラックバイト」や「ブラック企業」の中で
苦しい思いをしてしまう生徒もいることは事実である。
それもある程度耐えられる点は大いに評価出来るが、彼らの将来を
考えるとリスクも大きいと心配になってくる。

もちろん、学生時代に反骨心旺盛でも世の中に出たらブラックな組織の中で何も出来ないという人もいるから、学生時代に素直なのがいけないとは言えない。

学ばないといけないということだ。

10年ほど前から、教員として大きな疑問を持ち始めた。

昔なら、「苦労していれば、見てくれている人はいる。頑張れ!」と
言えたが、最近はどうだろう?派遣社員として人材を使い捨てにする
企業や社会を考えると、

「素直に言うことをきくだけの人間を育ててよいのか?」

「組織の役に立たずに文句を言うのはまずいが、組織にとって有益な
人材だからこそ、言うべきことを言える人材にしないと世の中全体が
ますます悪くなるのではないか?」

私自身世間知が高いとは思えないし組織の役に立ててるとはとても言えないが、それでも組織との闘いの経験はある。
少しでも「戦い方」も伝えるべきでは?学生生活の中でそうした経験も必要なのでは?

そのためには、「教師」が絶対者として君臨するような徹底した管理型
教育では駄目なのは確かだ。

だからと言って、安易な政治的活動を生徒と教員がやるのもどうかとは思うが。身の丈にあった課題に全力でぶつかればよい。もちろん、高校生の日常にだって思わぬ大きな課題が舞い込む偶然もある。その時は、やるだけやってやれ!と私も応援することにしている。

最近流行している「アクティヴラーニング」などもそうした文脈で考えれば
当然必要な取り組みの1つになるだろう。

ただ、である。

「ゆとり教育」にせよ、「グローバル教育」にせよ、文言は決して
間違っていない教育指針がまともに機能しなかったり、逆に暴走して
しまうのは何故なのか?

私は、「教育」がどういう社会を創るのかということについて、大人側の
想像力が致命的に欠落しているからだと思わざるを得ない。

現在の教育を全否定し、「これからは○○教育だ」と叫ぶ人たちの頭の中に
それが実現した場合の「未来の社会の姿」がほとんどないのが怖い。

たとえば、「ゆとり教育」の是非については色々あるだろうが、まだその教育を
受けた人材がどのような人材として育ち、どのような社会を創るのか
について検証もないまま、新しい方針を打ち立てる。それも、自分たちの
責任を問われないように、狡猾に「ゆとり」を「焼き直し」ながら。

私は「ゆとり教育」をよいとは思わない。念のため。

ただ、検証もせずに新しいモデルを提唱する節操のなさにうんざりだ。

そして、2020年の大改革と言われる平成の教育改革にも、「将来このような
社会を実現し日本をよりよい社会として進化させたい」という理念は見えない。

あるのは、「これからはグローバルだ。これからは発信力だ。これからは
思考力だ。イノベーションだ。」というトレンドの連呼。

「教育」について語るのは簡単だ。プロ野球について語るのと同じくらい
ハードルが低い。誰もが評論家になれる。

しかし、それぞれの問題意識は尊重されるべきだが、「改革案」を実現したら
何が起こるのかについての慎重な考察や、今後向かうべき「社会」の姿を
見据えた上で議論しなければ、大きな失敗をすることになる。

その失敗はもしかしたら取り返しがつかないものかもしれないのだ。

そして、その失敗によって出来上がった社会で苦しい思いをするのは
今の若者であって、現役の役人や評論家などではない。

「教育」を語るなら、せめてその程度の覚悟くらいは持って語りたいですね。

この記事を書いた人

ESN英語教育総合研究会

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