女子教育研究会FEN オンライン学習会
ゲスト:孝岡 智子 氏(芦屋市議会議員・モコソフト株式会社代表)
テーマ:働く女性の Well-being ― 家事・育児・政治
形式:オンライン講演 + 質疑応答
1 . 開催目的と背景
Well-being は企業・教育に続き、政治領域でも注目キーワードとなっています。働きながら子育てし、市議・起業家として活動する孝岡氏の実践に学び、家事・育児・政治を横断するキャリア形成と女性のリーダーシップを考える場としてコアメンバーの西尾克哉先生(滝川第二中学高等学校教諭)と伊藤久仁子先生(共立女子第二中学高等学校教)を中心に企画しました。
2 . 登壇者略歴
・高校卒業後、秘書専門学校でビジネスマナーや秘書としてのスキルを習得。
・20 歳の時に新幹線パーサーを経験し、女性の職場での上下関係の中でチームビルディングを体感。
・23 歳の時に社長秘書に転職。直感的にねずみ講では?という疑問を抱き、社長に進言したところ、ハラスメントを受けた末に不当解雇。弁護士も雇わず自力で労働基準法を調べ、裁判を起こし勝訴。のちにその時の社長は詐欺容疑で逮捕されるというドラマのような展開に。
・ご結婚された後、ワンオペ育児の合間にゲーム開発。 “余白”を価値に転換。
・30代 モコソフト㈱を設立。30万DLというヒット作品となり、「遊び心」が事業に。
・2019 芦屋市議会議員初当選 市民発・デジタル活用型の選挙
・現在 2期目。女性議員5/21名。SNS発信により議会改革を推進
3 . 講演ハイライト(12のストーリーと教訓)
孝岡様の発表は、小学生時代からのエピソードから始まりました。政治の話とどう繋がるのだろう?と驚かれた参加者もいたと思いますが、議員としての孝岡様を理解するために全てが繋がっていることが発表の後半で理解できたのではないかと思います。
1 小4 掃除当番での気づき: 口下手な同級生の掃除終了報告を支え、先入観を外し“役割”を与えることが人を伸ばすことを体験から学ぶ。
2 中2 いじめ克服 :笑いで輪を広げた結果、いじめ共犯者が自分の輪に入り、加害者も最後は行動変容するという経験をしたことで、楽しさは恐怖より強いということを学ぶ。
3 中3 文化祭:文化祭はさせない、と叱る先生に、クラス全体の前で直談判。 「空気」より「声」によって主体的に場を動かすことができるという成功体験。
4 新幹線パーサーとして、上下関係が理不尽に厳しい女性の職場を体験。上司へ直訴した結果、そこまで言うなら新人だけで結果を出せと言われたことに発奮し、新人だけで編成されるチームで販売成績1位を達成。信頼と自主性が組織を変えるということを学ぶ。
5 秘書職での“不当解雇” :ねずみ講疑惑を指摘したところ社長の機嫌を損ねてハラスメント被害に。しかし不当解雇を許さず、自力で労働基準法を学び、裁判で勝訴。後に、社長が詐欺事件で逮捕されるなど、違和感から出発し、正義を貫く勇気が大切だと実感。法的リテラシーの重要性も学ぶ。
6 ワンオペ育児の“余白”: 子どもが手のかからない時間を隙間時間として、創造のための時間へ転換。クロスワードパズルを考案。夫のプログラミングスキルの支援も受け、後に30万DLのヒットアプリとなる。
7 モコソフト起業:夫に「無理」と言われ発奮。法務局への書類提出も独学で学ぶ。ゼロからでも仕組みは作れることを実践。
8 芦屋へ転居・行政へ提言:小学校計画の中止に異議。『素人の市民が政治に口を出すな』と言われ、 個人の声を「まちの声」に束ねる難しさを知る。
9 新しい自治会モデル:個人の声を町の人々の声に、という試みの原点として、 会費0円・デジタル交流など従来の自治会の弱点を課題として新しい仕組みを作り上げる。逆風をアイデア源に、情報共有を武器にすることで全国でも成功例として有名な自治会を作り上げた。
10 初選挙:主婦仲間中心の手作り選挙 により“楽しさ×情熱”を強力な動員力として市議会議員選挙で当選。
11 市議1期目の壁:SNS発信といった政治活動への抵抗を受け、問責決議を出され可決されてしまう。 透明性を恐れる空気と闘う毎日が続く。
12 2期目とWell-being観 :「笑い・信頼・例外を恐れぬ声」 家事×育児×政治=Serendipity
一つ一つのエピソードが、孝岡様のキャリアの中で全て繋がっていることを参加者として感じました。机上の学問や政治家になりたいという志望ではなく、日々一人の人間として誠実に、懸命に生きてこられたことが、社会の課題と向き合うことに繋がり、シチズンシップの意識を育て、社会を変える当事者としての政治家孝岡氏を生んだことが分かります。
4 . 孝岡氏のキャリアに通底するWell-beingのキーコンセプト
・違和感にフタをしない:幼少期からの直感を大切にし続ける。
・役割→可能性:小さなミッションが人を伸ばす。
・信頼ドリブンのリーダーシップ:命令より共感と自主性。
・Serendipity:家事・育児・政治が交差する予期せぬ偶然を力に変える。
情報の民主化としてのSNS活用やデジタル自治会で“届いていない声”を可視化する孝岡氏の活動の土台には、頭でっかちな理論ではなく、生きた体験が植物の根のようにしっかりと社会という大地に根付いていることを感じました。しかし、そんな孝岡氏が現在直面しているのは、議会という分厚い壁であり、変えることを諦め、変革に無関心で現実を容認してしまう分厚い中間層。学校というムラ社会組織の中で、変えようとする志を持つ教員には強く共感できる内容だったと思います。
5 . 質疑応答・参加者の声(要旨)
・女性議員は特に厳しいのでは?という声もありましたが、女性議員が増えても構造が変わらない実情についてお話下さいました。 数より文化。議会慣行を“可視化”し、市民と共有する改革が必要だと思われます。
・孝岡氏が多様性のある環境でレジリエンスを身に着けたことからも、女子校という守られた環境が多様性を狭めるのでは?という疑問も出されました。学校環境だけでなく“外の遭遇体験”を意図的に設計する余地があることを参加者のやり取りの中で確認しました。
・同調圧力を克服する教育法は? 作文・ディベートで「望ましい答え」に近づくことを学んでしまっているのではないか?という声もありました。個の視点を評価軸にする、正解を忖度して決めずに深く思考する環境の重要性について議論が深まったように思います。
孝岡氏の歩みは、声を上げる勇気・笑いと信頼で場を変える力・偶然を掴み取る姿勢が、家事・育児・政治の境界を越え、新しいWell-beingの形を提示していたと思います。参加者一人ひとりの原体験と照らし合わせながら、これからの女子教育や地域コミュニティづくりを再考する学びの場となりました。孝岡様には貴重な機会を頂いたことに感謝です。
この記事を書いた人
esn